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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第四部 サベッジ編
49/60

第48話 宣戦布告/ルーカスの野望

 眼帯の騎士ルーカス・ウェーカーの身体能力は、彼が14歳になった頃から飛躍的に上昇を始めた。それに加えて、剣術の基礎を独学で磨き続け、騎士見習いになってからも鍛錬を怠らなかった事で、2年間の騎士見習い期間を終える頃には、既にその技量は熟練の騎士に負けずとも劣らない水準にまで達していた。

 その彼が今、全力で王都の街の中を駆けていた。目的はただひとつ、ニューブロンズ女王ステラと、その騎士アズール・フェンリル・ウォーカーの捕獲である。

 ブロンズ王の命を狙い、ブロンズ王国への宣戦布告を行ったニューブロンズ女王は、ここで必ず捕らえなければならない。それが騎士としてのルーカスの大義名分であった。

 だが、彼の本心はステラを取り戻す事、ただそれだけを目的としていた。

 6年前、無力な自分では支えることが叶わず、彼女自身にニューブロンズへ行くことを決意させてしまった、その悔しさを胸に、ルーカスは騎士として奮闘してきた。

 彼の6年間はステラの為に費やされたものであった。

 しかし、6年ぶりの二人の再会はルーカスの期待した形で実現しなかった。

 再び現れた彼女はニューブロンズ女王として、ルーカスの最大の敵であるアズールを伴ってやってきたのだ。


「くそっくそっ」


 全力で走りながら、ルーカスはそうつぶやき続けていた。

 4年前に正式な騎士となり、騎士団に配属されたルーカスは、自ら志願して当時の激戦区であるセイレン王国へと派遣された。

 獣人とヒトの内戦が激しく続くセイレンは、まさに地獄絵図だった。

 そんな場所でルーカスは数々の獣人の部隊と衝突し、武勲を挙げていった。次第にルーカスの名が知られるようになり、それから2年後に内戦は収束した。

 それからは王国政府直属の騎士団に召集され、獣人の残党狩りを命令されていた。ルーカスはあえて村や街の近くで獣人を待ち伏せ、その戦いを王国民の目に入るようにした。

 そうすることで、本来隠密活動として行われるべき獣人の残党狩りが、公の目に留まるようになり、結果としてルーカスの知名度が上がった。

 そうしてルーカスは、ブロンズ国王への謁見にこぎつけ、ニューブロンズ王国の存在を国王はじめ王国政府の中枢に明かしたのだった。

 ルーカスの情報を聞いた政府中枢は、セイレン王国側にも情報を共有し、かの内戦の原因でもあり功労者でもある聖女ルーナシア・エルメスターをブロンズ王国に派遣した。

 ルーナシアとルーカスは顔見知りであったことから、スムーズに話は通った。

 この密会を機に、ブロンズとセイレンとで何度も調整が行われ、今後のニューブロンズの動きに対応する為、両国のつながりを強化する為に、ブロンズ国王と聖女の結婚がなされることになったのだった。

 全てはうまくいっているはずだった。

 ルーカスとしても、ニューブロンズに対して一人で挑むつもりは無かった。だが、ブロンズとセイレン両国の連合軍であれば、サベッジ山脈を超えて、ニューブロンズへ攻め込むこともできるだろうと考えていた。


「それなのに、なんでっ」


 突然現れたステラは、ブロンズ王国への宣戦布告を言い渡した。

 ルーカスにとっては大きな誤算だった。まさかステラが攻めに転じるとは思っていなかったのである。

 ニューブロンズに渡り、おそらくはクーデターにより政権を獲得したステラによって、セイレンの内戦への武力供給は絶たれた。その為にステラはニューブロンズに行ったのだ。

 それなのに、そのステラが、ブロンズ王国への宣戦布告をするとは。


「・・・ははは、はははは」


 ルーカスは乾いた笑い声を響かせながら立ち止まった。

 そこは既に王都の外。彼の目の前には広大な王国領と、サベッジ山脈が写っていた。


「逃げられたか」


 ステラとアズールは、どうやらとっくに逃げてしまったらしい。さすがは獣人だ。ヒトの足で追いつくなど、到底無理な話だったか。

 傾きかけた日を眺めていたルーカスの背後から、はぁはぁと洗い息遣いが聞こえてきた。


「お、おい貴様!ステラ様とアズール様はどうした!」


 そこにはリリーナ・フェンリル・ロハスが、間抜けに立っていた。



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