第41話 聖女降臨/結婚指輪
第2部以来の再登場。
サベッジ村領主ジョルジュ・レーガン邸の前に、一台の馬車が泊まった。
馬車にはブロンズ王国のシンボルである菱形の模様が刻まれており、ひと目で王国政府の関係者が乗ってきたものだと分かる。
「まさか、貴女が獣人だらけのこの村にやって来るとは、思ってもみませんでしたよ」
国王相手でも物怖じしない英雄ジョルジュだが、今回ばかりはこの突然の来客に動揺を隠せなかった。
「たしか、こうしてお会いするのは、2年前の戦勝記念式典以来ですわね」
その来客は左手で口元を隠しながら、ホホホと笑う。
その左手の薬指に、指輪がはめられているのに、ジョルジュは気付いてしまったが、敢えて無視することにした。おそらく向こうは指輪のことを突っ込んで欲しいのだ。
そんな誘いに乗るものかと、ジョルジュは引きつった笑顔を浮かべた。
「こんな所で立ち話もなんですから、どうぞこちらへ。私の妻も紹介しますよ」
「あら、そういえばご結婚されたのでしたね。お相手は、もしかしてサラさんかしら?」
ズバリ妻の名を言い当てる来客に、ジョルジュはまたしてもどきりとした。
サラとこの来客が会ったのはもう6年ほど前の事で、ほんのわずかな時間だった。それなのに、よく覚えているものだとジョルジュは素直に感心した。
「驚いた。もしかして、誰かからお聞きしていましたか?」
驚きすぎてくだらない質問をしてしまった。
「いえ、なんとな~く、そうかなとフフ」
可愛らしく笑う彼女は、まさに聖女と呼ぶにふさわしい可憐な立ち姿だった。
ルーナシア・エルメスター。セイレン王国で起きたヒト種と獣人種との争いによる内紛を誘発させた張本人にして、聖ヴァナルガンド教会セイレン大聖堂から正式に任命された聖女である。
彼女の行ったセイレン王国内の獣人集落への粛清が、先の内紛の引き金になったのだが、今ここにいる女性は、その残虐非道な行いを指示した人物と同じとは思えないほど美しく、凛としていた。
「お久しぶりですルーナシア様」
サラがルーナシアに挨拶する。表情から、警戒しているのが丸分かりだった。
「お久しぶりですサラさん。遅くなりましたが、ご結婚おめでとうございます」
どうもと会釈して、サラは奥へ引っ込んでしまった。お茶の用意にかこつけて逃げ出したのだろう。
「フフ、相変わらずかわいいお方」
サラの背中を見送り、ルーナシアが言葉を漏らす。
「ええまぁ。ってそうではなくて、急にいらっしゃるなんて、一体どういったご用件ですか?」
ジョルジュは早速本題に入ろうと切り出した。
「あら、英雄殿は随分せっかちですのね。もう少し、おしゃべりを楽しんでもよかったですのに」
「あいにく、貴女との共通の話題は血なまぐさい内容しか思いつかなくてね」
「それもそうですわね」
ホホホと口元を隠しながら、聖女が笑う。
その手にはやはり指輪が煌めいていた。
ジョルジュは悟ったように息を吐きだし、観念した。
「その指輪はどうされたのですか?」
おそらくルーナシアが一番触れて欲しかった内容はこれなのだろう。
「フフフ、お気づきになりましたか?実はですね・・・」
英雄ジョルジュは、例えどんなのろけ話が飛んできても、最後まで聞こうと心の中で誓った。
聖女ルーナシア・エルメスター。結構いい年。




