第39話 孤児院での再会/シスタークロエは今日も溜息をつく
かつてブロンズ王国南部サベッジ山脈へと至る街道沿いに建っていた聖ヴァナルガンド教会孤児院は、今は再興したサベッジ村に移築されていた。
セイレンでの内紛収束後、セイレン王国からセントラル通商連合へと流出する獣人達の
ちょうど通り道にあった孤児院は、度々獣人の暴徒の襲撃に遭っていた。
北の騎士団から騎士が派遣されていたが、被害ゼロというわけにはいかず施設の破壊を許していた。
シスター達が困り果てていたところに、サベッジ村の領主となったジョルジュから、孤児院をサベッジ村に移築しないかという提案があった。
孤児院にはヒトの子ども達だけでなく獣人の子ども達もおり、今後ブロンズ王国がセイレン王国に追随して獣人迫害の道を進むかもしれないと考えたシスタークロエは、ジョルジュの提案に乗ることにした。
眼帯の騎士様ことルーカス・ウェイカーは、レーガン邸で一泊した後、懐かしい孤児院に立ち寄っていた。
懐かしいとは言っても、ルーカスが知っている孤児院は山の下にあった頃の物で、新しく村に移築してからは数える程しか来ていない。
お世話になったシスターや子ども達の顔を見る為に、ルーカスは村に来た時に必ず孤児院を訪ねていた。
ルーカスが孤児院の扉を開けると、中からシスタークロエの怒声が聞こえてきた。
「お待ちなさいイグニス!修練はまだ終わっていませんよ!!」
バタバタと廊下を走るシスタークロエを、ルーカスは懐かしく思った。
「たまにはいいじゃないかシスター!文字の読み書きとか、数の計算とか、毎日やってたらもやしになっちゃうよ!!」
ドタバタと廊下を走る音がもうひとつあった。イグニスと呼ばれた少年が、シスタークロエから逃げるように走っている。
少年は入口に立つルーカスに気付くと、しまったという顔をした。
「げぇえぇっ!ルーカス!」
「よう、イグニス。観念しな」
そう言ってルーカスはイグニスに向かって駆け出し、正面から思い切りぶつかっていった。
ルーカスは呻きながら転がっているイグニスの首根っこを掴み、スタークロエに引き渡した。
「シスター、いい加減年を考えましょう」
「まったくだわ。修練から逃げる子なんて、あなた以外もう現れないと思っていたのに」
シスターの嫌味を含んだ応答に、ルーカスは黙るしかできなかった。
すっかり伸びているイグニスをベッドに寝かせ、シスタークロエとルーカスは久々の再会を喜んだ。
「領主さんにはもうお会いしてきたの?」
「ええ、昨日訪ねて、一晩泊めてもらいました」
「・・・領主の家にそうズケズケ入っていけるのは、あなたくらいのものね」
「それ褒めてないですよね」
二人で顔を合わせて笑いあった。
「王都の情勢はどうなの?」
「相変わらずきな臭いですよ。軍備増強ばかりで」
「この村も、巻き込まれるのかしら」
「分かりません」
王都では軍備拡張が行われており、騎士の採用数がどんどん増えていた。
その結果、質の悪い騎士が増産され、王都の治安悪化につながっていた。
王都の騎士団に勤めるルーカスをはじめ一部の騎士達は自警団を組織し、王都の市民に迷惑をかける騎士を諌める活動をしているのだった。
「本当はこんなことをしても意味がないのかもしれませんが」
「自信を持ちなさいルーカス。あなたの行いはいつか必ず身を結ぶわ」
「シスター・・・」
「いつかステラを迎えに行く、そうでしょう?」
昔と変わらない優しい笑顔で、シスタークロエが語りかける。
二人が温かな空気に包まれていると、ドタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。
音はこちらに向かっているようで、どんどん大きくなっていき、バアアアンと勢いよくドアが開けられた。
「イグニス!あなたまた修練から逃げ出したの!?」
イグニスの母、マーサだった。
「イグニスならまだのびてるよ」
ルーカスが呆れながら言った。
「あら、シスタークロエ、それにルーカス。これは失礼しました」
あははと笑ってごまかすマーサに、シスタークロエがため息混じりに言葉をかける。
「あなたも相変わらずねマーサ。はぁ・・・」




