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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第三部 セントラル通商連合編
37/60

第36話 約束/ルーカス・ウェイカーは騎士になる

 セントラルからブロンズ王国へと至る街道を、ルーカス・ウェイカーは一頭の馬を駆って走っていた。

 セントラルへ向かう時は3人で狭い荷馬車にのっていたが、帰りはこうして一人で馬を走らせている。

 馬はマクルーガー氏から贈られたものだった。息子が迷惑をかけたのでその代わりにと言っていたが、それ以外の事も含んでの物だろうとルーカスは思っていた。

 この馬にステラも乗せてあげたら、どんなにか楽しかっただろうと、そう思わずにはいられなかった。





「私行きます、ニューブロンズに」


 ステラがそう言い放った時、ルーカスは全身の力が抜けたようにソファに座り込んでしまった。

 ついさっきまでステラと手を握っていた右手を、力なく見つめて、今度は視線を立っているステラに向けた。

 頭の上の獣の耳はピンと垂直に立っており、心なしか髪の毛も少し逆だっているように感じた。

 対面に佇むグレゴリーも、ステラの言葉に驚いた表情をしていたが、すぐににこにこ顔を戻ってソファに腰掛けた。


「ステラさん、ありがとうございます」


 そう言ってグレゴリーは頭を下げた。

 その姿を見ながら、ルーカスは目頭が熱くなるのを感じた。

 自分はこの男との勝負に負けたのだと、ルーカスは悟った。

 ふと、ステラがこちらを見ていることに気付いた。ボーッとステラの方を見ると、ステラと目が合った。


「ごめんねルーカス」


 気付いたときには、ルーカスは涙を流していた。

 ティーポッドを持ったマクルーガー氏が戻ってきて、入れ替わるようにグレゴリーが帰っていった。


「さっそく明日お迎えにあがります、では」


 グレゴリーは最後までにこにこした顔のままだった。

 ルーカスは涙をぬぐい、グレゴリーを睨みつけるように見送った。


「さて、では君たちの帰りの馬車の手配もしておこう。今夜もう一泊して、明日帰るといい」


 マクルーガー氏の言葉はもうルーカスの耳には入っていなかった。


「ありがとうございます、マクルーガーさん」


 ステラが立ち上がり、お礼を言っている。


「ほら、ルーカスも」


 促されるまま立ち上がり、ルーカスはステラの後に続いていく。

 昨夜も泊まった部屋に入り、ステラが振り返り、ルーカスの顔を覗き込む。


「ルーカス?」


 ステラと目が合ったルーカスは、咄嗟に視線をずらした。ルーカスの目にはまだ涙が浮かんでいた。


「ごねんねルーカス。でも、多分、私が行かなくちゃあの人は孤児院のみんなを本当に殺してたと思う」


「・・・」


「ごめんねルーカス。・・・ごめんね」


 そう言いながら、嗚咽を漏らすステラ。ルーカスが顔を上げると、大粒の涙を流すステラがそこにいた。


「泣くなよステラ」


「だって、ルーカスだって」


「・・・もう泣かないよ。だからステラも」


「無理だよ。自分で決めたことなのに、こんな・・・こんなの」


 泣きじゃくるステラに、ルーカスは手を伸ばして、触れることなく腕を下ろした。


「ステラ、どれだけ時間がかかるか分からないし、できるかどうかも分からないけど、いつか必ず迎えに行く」


「・・・なに、言ってるの?」


「騎士にでもなんにでもなって、ニューブロンズって所に行って、王様になったステラを連れ出すんだ」


「ルーカス・・・馬鹿なの?」


「なっ!人が真面目に!」


「だって・・・笑えてきちゃった」


 クスクスと肩を揺らすステラに、ルーカスは安堵の息を漏らす。

 つられてルーカスも笑い出す。

 そうして、夜は更けていった。


 朝早く、グレゴリーはステラを迎えに来た。

 二人は抱擁を交わし、別れた。その時の二人の目には涙は浮かんでいなかった。


 一人ブロンズ王国に戻ったルーカスは、シスタークロエに事の顛末を説明し、自分も成人の儀式を終え次第、孤児院を出ることを話した。


「孤児院を出るって、そんな急に、どうして」


「シスター、俺、騎士になります。騎士になって、そしてステラを迎えに行きます」



第三部、これにて完結。

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