第35話 約束/真の王
ひとしきり話し終えたグレゴリーは、2杯目の紅茶をグイッと飲み干した。
「話しすぎて喉がカラカラです。マクルーガーさん、おかわりいいですか?」
ティーカップを傾けながら、グレゴリーがマクルーガー氏に顔を向ける。
「ふむ。そうですな。どれ、私自ら美味しいお茶をいれてこよう」
そう言ってマクルーガー氏が席を立ち、ティーポッドを持って部屋から出て行った。
「え、ちょっ、マクルーガーさん・・・」
取り残されたルーカスは、放心状態のステラを横目に狼狽していた。
「さて、話の続きですが、単刀直入に言います。ステラさん、私と一緒にニューブロンズに来てください」
「・・・えっ!」
「ぶっ!」
先程まで意識を遠くに飛ばしていたステラが、ハッと我に返った。
ルーカスは、喉を潤そうと口に含んでいた紅茶を吹き出した。
「ちょっと待てよアンタ!次から次へと一体なんなんだ!」
とうとうルーカスがキレた。
「いや、ですからね。ニューブロンズの今の国王は、ヒトなんですよ。でね、ヒト優先の政策をしていましてね、我々獣人は形見の狭い想いをしているわけですよ。そこでですね、王族の血を引いているであろうステラさんを担ぎ上げて、クーデターを起こしちゃおうと、そういうわけなんですよ」
ね、簡単でしょ?と言わんばかりに、グレゴリーが首を傾ける。
「喋ったらまた喉が乾きました」
そう言って三杯目の紅茶を口にするグレゴリーは、ルーカスとステラの様子を伺う。
この子ども達がここからどのような反応を示すか、それによってこの後のグレゴリーの反応が変わってくる。
紅茶を飲み終えたグレゴリーは、カップをテーブルに置いて、すぅーっと息を吐きだした。
「ステラさん、私たちと一緒にニューブロンズに来てください。そして、私たちの王になってください」
ステラの目を真っ直ぐに見つめながら、グレゴリーは言った。
ジッと見つめられたステラは、視線をルーカスの方にそらした。
ステラの視線に気付いたルーカスは、思わずステラの手を握っていた。
「グレゴリー・・・さん。ステラは連れて行かせない」
ステラの手を強く握り締め、ルーカスは真っ直ぐに言葉を放った。
「私は、ニューブロンズには行けません!」
ステラも震える声で言い放った。
「ほう・・・」
にこにこした顔で二人の顔を交互に見比べて、グレゴリーは溜息をついた。
「当然の反応、ですかね。無理もない、そう言われるであろう事は予想していました。いいですかステラさん、ニューブロンズの現国王はこのままセイレン王国の内乱に手を貸すつもりです。そうなれば、セイレンの獣人たちはいずれブロンズ王国にも暴徒の手を伸ばすでしょう。しかし、貴女が王になればそれを止めることができる」
どうです?いいことでしょう?とでも言わんばかりの笑顔を浮かべるグレゴリーに、ステラは不気味さを感じていた。
「そんな話、信じられるか」
ルーカスが悪態をつく。
「ふむ。では、こう言えばどうですか。ステラさんが一緒にこないのなら、私たちは貴方たちの住む孤児院を襲撃します」
「!」
「卑怯だ!そんな卑怯な事をよくも!」
激昂したルーカスが立ち上がり、腰から石のナイフを取り出した。
「おっと、落ち着いてください。ここは戦いの場ではありませんよ」
「アンタ達は夜襲や暗殺や陰謀を張り巡らせて、みんなを滅茶苦茶にして、今度は直接脅すっていうのか!」
ルーカスが早口でまくし立てる。落ち着く様子は一切ない。
「ルーカス・ウェイカー、落ち着きなさい。ここで君と私が戦った場合、君が勝てる可能性は極めて低い。それだけではなく、ステラさんが巻き込まれて死ぬ可能性もありますよ。それでもやります?」
グレゴリーがゆっくりと立ちあがり、腰に手を伸ばした。
ルーカスがナイフを構え、今にも飛びかかれそうな程身体を前かがみにしている。
正に一触即発といった状況で、ステラの思考は以外にも冷静に働いていた。
「二人とも待って」
スっとステラが立ち上がり、二人を制すように声を上げる。
「グレゴリーさん、私行きます。ニューブロンズに」




