第32話 大商人の野望/思いもよらない客人
一夜明け、ルーカスとステラは執事らしき人に起こされて、顔を洗い、服を着替え、朝食を摂った。
食堂に案内された後、執事らしき人が去り際に放った「昨夜は遅くまでお楽しみだったようですね、フフフ」というセリフに、ルーカスとステラは頬を染めていた。
別に本当にお楽しみだったわけではない。二人で遅くまで、マクルーガー氏にする話の内容を整理していただけだ。
妙な誤解を受けた二人はなんだか気まずくなり、黙々と朝食に手を付けた。
二人がちょうど朝食を食べ終わる頃、今度はメイドさんがやって来た。彼女がマクルーガー氏の部屋に案内してくれるようだ。
「お二人の他にもう御一方お客様がいらっしゃるそうです」
「俺たち以外にも客人が?一体どういう人なんですか?」
ルーカスの問いに、メイドさんは遠慮がちに目を伏せた。
「それは私の口からはとても・・・。申し訳ありません」
「あーい、いえ。なんだか言いにくい事だったみたいで・・・」
「いえ、ただ、あの方はヒトでは・・・いえなんでもありません。申し訳ありません」
申し訳なさそうに言うメイドさんに、ルーカスもなんだか申し訳なさを感じた。なにやってるのよ、とでも言う様にステラが脇腹を小突いた。
そうこうしている内に、昨日も案内された応接間に通された。
昨日と同じようにソファに座り、いつの間にか出された紅茶とクッキーを貪りながら、マクルーガー氏を待つ二人。
ルーカスは何か話そうとも思ったが、何も思いつかなかった。
昨日の夜、ステラとは散々話したが、本当に話したい事は結局なにも話せなかった様な気がしていた。
ルーカスが悶々と悩んでいるのを見て、ステラもまた何かを感じ取ったのかチラチラとルーカスの方を見ていた。
二人の間に流れる緊張が頂点に達した時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「「はぁい!」」
突然のノックに、二人とも変な声が出てしまった。
「やあ、遅くなって済まなかったね」
ノックの主はマクルーガー氏だった。マクルーガー氏はドカっとソファに座ると、板を向いてフーっと息を吐いた。顔を上げてスーカスとステラを見る。その表情は、僅かに緊張している様にも見えた。
「早速、君たちの見たこと、聞いたことを教えてもらいたい」
マクルーガー氏の言葉を聞いて、ルーカスとステラは顔を見合わせ、ゆっくりと話し始めた。
ルーカスとステラは、昨夜の話し合いで、マクルーガー氏に何もかも全てを話してしまう事を決めていた。
全てというのは、ステラの事も含めてだった。
これはステラ自身が言い出した事だった。
ルーカスは、当初は反対していたが、ステラの説得で最後には折れてしまった。
ステラの過去について、ステラ自身の口からマクルーガー氏に語られた。
マクルーガー氏は驚きの表情でその話を聞いていた。時折、「そうか」「聖女・・・ステラか」「ふうむ」と何か思うところがあるように頷いていた。
最後まで話し終え、ステラは大きく息を吐いた。話疲れたのかソファに思い切りもたれかかっている。
「ありがとう。君たちの話を聞けてよかった。おかげで、これから我々が取るべき道が見えてきたよ」
優しく微笑むマクルーガー氏の笑顔に、ルーカスとステラもホッとした。
「さて、実はもう一人客人を招いていてね、ぜひとも君たちに会ってもらいたいのだが、構わないかね?」
突然のマクルーガー氏からの申し入れを疑うことなく、ルーカスとステラは「いいですよ」「構いませんよ」と頷いた。
先ほどメイドさんが言っていた、もう一人の客人のことだなと二人とも思っていた。
そういえばメイドさんが言っていた「ヒトではない」って、そういう事だろうか、とルーカスは考えていた。
「どういう人なんですか」と尋ねた自分に、メイドさんは「ヒトではない」と答えていたが、あれはどういう・・・そこまで思案してルーカスは自分の愚かさを呪った。
この正解でヒト出ないものと言えば、一つしかない。しかも、ついさっきまで、それに関する話をしていたではないか。
ルーカスはステラを見ながら口を開いた。
「マクルーガーさん、客人というのはもしかして獣人」
「失礼します」
ルーカスの言葉をかき消すように、ドアが開き、声がした。
ドアを開けてそこに立っていたのは、紛れもなく獣人だった。
「はじめまして。グレゴリー・フェンリル・ロハスといいます」
第2部冒頭以来、再登場のキャラになります。




