第30話 セントラル/シスター・マーサの秘密
「君たちはセイレンの聖女ルーナシア・エルメスターと接触したのだろう?私は彼女の真意を知りたいのだ」
「真意?」
「そうだ。君たちからは、彼女とどんな話をしたのか、彼女が何を話していたか、そういう事を思い出せる限り教えて欲しいのだ。頼むこのとおりだ。君たちだけが頼りなのだ」
そう言ってマクルーガー氏が頭を下げた。マクルーガー公国の国王の弟であり、王位継承権こそ放棄しているものの、王族の血を引いており、セントラル通商連合を代表する承認であるカルカゴ・マクルーガーが、孤児の少年に頭を下げたのである。
カルカゴ・マクルーガーの言っている事がまるで頭に入ってこず、ルーカスの思考は完全停止していた。頭が真っ白になるとはまさにこの事だと、冷静に考えている自分もいる。
そもそもセントラルへは、マクルーガー氏の息子ミキャエルとの収穫祭でのひと悶着の件で呼び出された訳だから、ここでマクルーガーの質問に答える必要はない。しかし、割と本気で怒られると思って身構えていただけに、こうして面と向かって「君たちの話を聞きたいのだ。ぜひともお願いする」と、自分より地位も身分もしっかりしている大人に頭を下げられると、簡単に断る事ができない。
というか、このよく分からない状況からルーカスは逃げ出したかった。今まで散々危ない目に遭ってきたが、今回はこれまでとは違う意味で逃げ出したかった。
「あ、あの」
「・・・」
「えっと」
「・・・」
「ちょ、ちょっと二人だけで話をさせてください」
沈黙に耐えられず、ルーカスはマクルーガー氏にステラと二人きりにするように頼んだ。少し頭を整理したいと思ったのだ。それから、相変わらず停止したままのステラを覚醒させたいとも思っていた。
「ふむ。ではしばらく私は席を外すとしよう。お茶とお菓子を用意させるから、少し落ち着くといい」
「あ、ありがとうございます」
作り笑いを浮かべながらルーカスはマクルーガー氏を見送った。その後すぐに執事らしい人が来て、お茶とお菓子を置いていった。シスター・マーサの事を尋ねると「まだお医者様が来られていませんが、横になって少し楽にはなったようですよ」と教えてくれた。
ルーカスはホッと肩をなでおろし、停止状態のステラを揺さぶった。
「ステラ!帰ってこいステラ!」
「はっ!私、今まで何を・・・頭が痛い!」
「考えすぎだよ」
そう言いながらルーカスは、ステラの口にクッキーをおしこむのだった。
「むぐっ」
「糖分を取らないと、頭も働かないぞ」
「ほうはへ」
「食べながら喋るなよ」
ステラはそのあとクッキーを5枚頬張り、紅茶を2杯飲み干してようやく落ち着きを取り戻した。
「さて、マクルーガーさんはなんて言ってたんだっけ?」
「聖女のこと。ルーナシア・エルメスターの事が知りたいそうだ」
「そっか、彼女の事を・・・」
「とはいえ、俺たちも大して話した訳でもないし。話せることといえば」
「私の故郷の村を全滅させたこと・・・くらいかな」
「・・・」
「あんまり気にしないでルーカス。記憶はなんとなく、戻ったような戻ってないような感じだし。実際、私があの村の人たちから、あまり好かれていなかったっていう事実もあるし」
「それは、だけど・・・」
「ルーカスはなんだかんだ言ってずっっと気にしてるよね」
「それは・・・あんたが」
「あんた禁止って言った」
「いつの話だよ。それに確か、サラも結局あんたあんたって言ってたっぞ」
「ルーカスのが伝染ったんじゃないの?」
「おまえ・・・」
「おまえも嫌だなあ・・・」
「・・・」
ルーカスはステラを鋭く睨みつけたが、ステラは大して気にも止めていない。
二人がしばらく話していると、執事らしき人が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「お二人とも大変です!シスターさんはお子を身篭っておられます!!」
「お子?」
なんの事だかさっぱりというように、ルーカスとステラは互いに顔を見合わせて首を傾げた。




