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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第三部 セントラル通商連合編
29/60

第28話 収穫祭/王都の学生

 秋の深まった頃、ブロンズ王国では収穫祭の日を迎えていた。収穫祭は3日間続き、その期間は国外からも多くの観光客が王国中に溢れかえる。1年の内、最もブロンズ王国が潤う期間だ。

 今年は前国王の暗殺という痛ましい事件があったが、亡くなった前国王がお祭り好きであったという事から、現国王が例年通り収穫祭を開催することを決めたのだった。

 この国王の決断に、王都の商人達の間では「王国政府は資金を集めて戦争に備えているのではないか」という噂が、まことしやかに囁かれていた。



 聖ヴァナルガンド教会孤児院の子ども達が、飾り馬車を引いて孤児院周辺の村々を練り歩いている中、ルーカスとステラはサラのお父さんの手伝いに来ていた。


「いや~はっはっは!せっかくの収穫祭にわざわざ手伝いなんてさせて申し訳ないな~!」


 豪快に笑いながら、サラの父親、ブルース・ミラーが屋台に商品を陳列していく。ルーカスとステラは木箱から商品を取り出して、ブルースとサラに渡しながら「いえいえ」と首を横に振っている。

 ステラは頭をスッポリと覆う頭巾を被って、獣人の証である耳を隠している。昨今のセイレンでの獣人排斥の煽りをどこで受けるか分からない為、獣人だと分からないように耳を隠しているのだ。


「まったくよパパ。私も学校の友達と屋台を回りたかったのに」


 頬をふくらませたサラが、テキパキと手を動かしながらブツブツと文句を言っている。屋台の準備が終わったら遊びに行ってもいいと言われているそうだ。

 セイレン王国で休暇を過ごして以来、サラは週末になると必ず孤児院に来ていた。そして、保護された6人の獣人の子ども達に勉強を教えていた。保護された子ども達は、文字の読み書きこそ出来ていたが、計算がてんで駄目だった。サラはそんな子ども達の勉強を見てあげたいとシスタークロエに志願して、週末に勉強会を開くようになった。

 その為、今までよりも学校の友達と遊ぶ時間の減っていたサラは、久々に友達と気兼ねなく遊べる収穫祭の日を楽しみにしていたのだった。


「まあまあ、サラ、ほら、もうすぐ終わりそうだよ」


 プリプリしているサラをなだめるように、ステラが優しく微笑みかけた。


「そうだぞサラ。ルーカスとステラもこうして手伝ってくれてるんだ、お前が頑張らなくてどうする!」


「パパは黙ってて!!」


 せっかく表情が緩みそうだったサラだが、父親の無神経な言葉で再び怒り出してしまった。ブルースと目が合ったルーカスは苦笑し、首を横に振った。ブルースはガックリとうなだれてしまった。


 程なくして商品の陳列が終わり、サラは友達との待ち合わせ場所に走っていった。ルーカスとステラはブルースから賃金をもらい、それを握りしめて屋台の並ぶ通りに歩いて行った。


「みんなに何か買っていこう」


「飾り馬車でお菓子を沢山もらってるだろうから必要なし。自分の欲しいものを買いなよ」


 孤児院のチビ達を気遣うステラに、ルーカスはピシャリと言い切った。


「ルーカスは意地悪だなあ。そんなんじゃチビ達に愛想つかされるよ?」


 ジトーっと横から視線を感じるルーカス。ステラには最早、森でさまよっていた頃の面影はなかった。「だからどんだけ逞しくなってんだよ」と思いながら、ルーカスは溜息をついた。


「分かったよ。孤児院のみんなに何かお土産を買って帰ればいいんだろ?わかりましたよ!」


「さっすがルーカス!みんなおお兄ちゃん!」


 心にもないことを笑顔でいうステラに、ルーカスはまたしても溜息をついた。



 二人が屋台を見て回っていると、隣の屋台で何やら揉めている声が聞こえてきた。


「だからさ~おじさ~ん。俺たちが買ったウィンナーにさ~、ゴミがくっついちゃったんだって~」


「商人としてこれはいけませんよね~」


「てことで、もう1本、いや、もう2本ずつサービスして?」


 王都の学校の制服を着た3人の男が、ウィンナーの屋台のオヤジにいちゃもんをつけていた。巻き込まれるのはゴメンだと、ルーカスが足早にそこから立ち去ろうとする、が、ステラが男たちの方へ歩き始めた。


「バッ、何してるんだステラ!」


 ルーカスが慌てて止めようとするもかなわず、


「あなた達、いくらなんでも態度が横柄じゃないですか?1本だけにゴミが付いていたんなら、1本だけもらうべきよ!」


 ステラが男達の前に立ちはだかっていた。


「はあ?てか誰だよ?」


「おっさんの娘?違うか。部外者は関係ないので離れててもらえます?」


「この制服わかる?俺たちに手を出すとどうなるかわからないよ?」


 男たちも口々に好き勝手言い放った。ステラが若干下がり気味になってしまったのを見たルーカスは、腰に携えた石のナイフに手を伸ばした。


「てかさ、この子、ちょっとかわいくない?」


「ああ、確かに」


「これは・・・いちゃいますか?」


「?・・・」


 男たちが何を話しているのかステラは全く分かっていない様子で、首をかしげている。


「じゃあ、君さ、ちょっとこっち来てよ」


 そう言うと男の内のひとりがステラの腕を掴んだ。

 瞬間、その男の身体が宙を舞った。


「うお?」


 仲間が宙を舞っていることに気付いた時、その男は自分も宙を待っている事に気付いた。

二人の男がドスンと地面に落ちた。それを確認したルーカスが、ナイフを構えて残った男を睨みつけた。


「ひ、ひえええええ~~~」


 睨みつけられた男は、地面の上で気を失っている仲間を置いて逃げていった。

 すると、一部始終を見ていた野次馬たちがパチパチと拍手をしてきた。


「ステラ行くぞ」


 そう言って強引にステラの手を引いて、ルーカスはその場を後にした。



「ごめん」


 人気のない所まで走って少し休んでいる中、先に口を開いたのはステラだった。


「ああいう無茶は、今後禁止で頼むよ」


「ごめん」


 俯いたまま謝り続けるステラを覗き込むと、目の端に涙を溜め込んでいた。「見ないでよっ!」と顔を背けられた。

 ステラの手を引いて屋台の通りまで戻り、ルーカスはステラに髪飾りをプレゼントした。

いつかのお守りのお礼だと言い、素っ気なく渡された髪飾りを、ステラはさっそく髪に付けた。

 少しだけ、ステラに笑顔が戻った。



 孤児院に帰ると子ども達が大量のお菓子を持って出迎えてくれた。ルーカスの指揮で作った飾り馬車は好評だったようで、例年より多くのお菓子がもらえたらしい。

 ルーカスとステラは子ども達へのお土産を買い忘れたことに気付き、次の日、また王都で行ってお土産を買ってくる羽目になった。





 収穫祭から1週間後、孤児院に王国政府から書簡が届いた。書簡にはセントラル通商連合の大商人カルカゴ・マクルーガーの息子ミキャエル・マクルーガーが、収穫祭の日に孤児院の子ども二人に暴行を受けた、と書かれていた。どうやらルーカスとステラが遭遇した3人の男の内の一人が、大物の息子だったようだ。

 書簡には続きがあり、暴行の疑いのある孤児二人をセントラルのマクルーガー邸まで連れてこいというものだった。




次回、セントラルへの道!

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