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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第三部 セントラル通商連合編
28/60

第27話 収穫祭/帰ってきた騎士見習い

第3部の始まり。第26話から、約2ヶ月後。

 サベッジ山脈の木々が紅く染まり、空気が肌寒くなってきた頃、ブロンズ王国では収穫祭に向けた準備が始まる。

 一年の豊穣を神ヴァナルガンドに感謝するこの祭りは、200年ほど前から続く伝統ある祭りだ。元々、銅山で栄えたブロンズ王国だったが、200年前に銅山が閉山されてからは、近隣のセイレン王国に習い、麦を中心とした作物を育てて国を維持してきた。この祭りも元は、セイレンで行われていた収穫祭を真似て始められたものだった。

 収穫祭では、各地域が絢爛豪華に組み立てた馬車の荷台を、その地域の青年で引き、国中を練り歩く。道中出会った荷台同士は激しくぶつかり合い、相手を押しのけて道を進む。近年ではこの荷台同士の喧嘩が見世物として広まっており、わざわざこれを見るために近隣の国から足を運ぶ者もいるほどだった。


 聖ヴァナルガンド教会孤児院では、この時期になると子ども用の一回り小さな荷台を組み立てて、収穫祭の日に地域を周り、大人たちからお菓子を貰うのが習慣になっていた。

 荷台の組み立ては基本的に子ども達だけで行うことになっており、年長者のルーカス・ウェイカーは必然的に荷台の組み立てを指揮する立場になっていた。同年代のステラは祭りに参加するのは初めてな為、小さな子ども達と一緒に一から荷台の組み立て方を教えられていた。


 セイレン王国での一件以来、しばらく元気の無かったステラであったが、今では元通り毎日笑顔で過ごしている。ただ時折、一人になってボーッとしている事が多くなっているのを、ルーカスは心配していた。あんまりステラの方を見すぎて、金槌を打ち損ねて自分の指を思い切り叩いてしまったくらいだ。


「痛い・・・寒い」


 寒空の下、ルーカスが思い切り腫れた左手の親指を井戸水で冷やしていると、ステラが薬箱を持ってやって来た。


「大丈夫?」


 そう言いながらルーカスの隣に腰を下ろし、薬箱から軟膏を取り出すステラ。シスタークロエから、傷の手当の仕方を教え込まれたらしく、手際よくルーカスの指に薬を塗っていく。


「はい、できた。後は寝て起きて、明日になったら腫れも引いてるはずだから」


 そう言うとステラは、薬箱を抱えてさっさと孤児院の中に入っていってしまった。

最近はあまり長い時間ステラと話していないなと、ルーカスは改めて思った。


「まあ、外は寒いしな」


 そう言いながら鼻をすすり、自分も孤児院に入ろうと立ち上がったルーカスを誰かの声が呼び止めた。


「ルーカス!待てよ」


 声の方に振り向くと、そこにはジョルジュがいた。


「1ヶ月ぶりか?どうだい祭りの準備は?進んでるかい?孤児院も何かするのか?」


 久しぶりの再会を感じさせず、矢継ぎ早に質問責めしてくる幼馴染を、ルーカスは軽く小突いた。


「すまんすまん」


 ジョルジュが笑いながらルーカスの肩をバシバシと叩く。


「痛いって・・・」


 ムスっとした顔でルーカスが言うと、


「お前、ステラに振られたからって俺に当たるなよ」


 などと言いながら、ジョルジュは更に声高々に笑うのであった。



 ルーカスはジョルジュを自分の部屋に案内し、窓辺に吊るして乾燥させたうさぎ肉を一枚渡した。


「お、いいね。ありがとう」


 そう言いながら肉に噛み付くジョルジュ。彼の左腕には、『北の騎士団』の証である腕章が煌めいていた。

 ルーカスの目線に気付いたジョルジュが、腕章を外してルーカスに手渡す。ジョルジュから腕章を受け取ったルーカスは、舐めまわすかのように腕章を見ていた。

 程なくしてジョルジュが肉を食べ終わると、ルーカスはジョルジュに腕章を返した。


「お前も騎士団に入らないか?トーマスさんとマイクさんは諦めていないみたいだぞ」


 腕章を付けながらジョルジュが言った。

 セイレン王国から戻って以来、何度か騎士トーマスと騎士マイクが、ルーカスを騎士団にスカウトしに来ていた。ルーカスはいつも「まだ成人を迎えていないので」と言って断っていたが、あと4ヶ月もすれば成人の日を迎える。この国では、14歳の誕生日を迎え、その後に成人の日を迎えると大人として扱われるようになる。ルーカスの誕生日は成人の日の2ヶ月前なので、4ヶ月後には立派な大人になるのだ。


「お前が成人したら王国政府からの任命状を持ってスカウトしに来るらしいぞ」


 ジョルジュの言葉にルーカスは顔を青くした。王国政府の任命状を持ってこられては、さすがに断りきれなくなってしまう。


「まあ、俺はおすすめしないけどな・・・」


 ジョルジュが静かに呟いた。


「セイレンは・・・どうだったんだ・・・」


 ルーカスもまた、緊張した面持ちでジョルジュに尋ねた。





 ブロンズ王国の西側に位置するセイレン王国は、2ヶ月ほど前に王都ヴァナルガンディへの獣人立ち入りを全面禁止した。その為、元々ヴァナルガンディで生活していた獣人たちが街の外へ追い出され、ヴァナルガンディを囲む城壁沿いにテントを張って暮らし始めた。

 セイレンの王国政府は、聖ヴァナルガンド大聖堂の教会騎士団に、城壁周辺を不法占拠している獣人の駆除を依頼した。この依頼を受けて、大聖堂の聖女ルーナシア・エルメスター率いる騎士団が、城壁の周りに住んでいた獣人をみな殺しにした。

 聖女の獣人殺しは瞬く間に近隣諸国に広がり、諸国に点在する聖ヴァナルガンド教会からは批判の声が多く届いた。しかし、聖女ルーナシアはセイレン王国国王とともに新たな声明を出し、これらの批判を跳ね除けた。

 それは「セイレン王国領な内の獣人を一掃する」というものだった。この声明が引き金となって、セイレン王国では獣人とヒトとの紛争が勃発し、内戦状態となってしまった。

 セイレン王国はブロンズ王国に応援を要請し、比較的セイレンに近い場所に駐屯所を構える『北の騎士団』がセイレンへ派遣されたのだった。

 ジョルジュもこの派遣隊に加わっており、この1ヶ月程、セイレンで獣人相手に戦ってきたのだ。



「あれは酷い、地獄だよ」


 ルーカスからの質問に答えるジョルジュの顔は、恐怖で強ばっているようだった。

 二人とも何も喋らず、静かに時間が流れていった。



いつの間にか出兵し、いつの間にか帰ってきていた騎士見習いジョルジュ・レーガン。

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