第26話 予兆
第2部 最終話。
シスタークロエからの返事は、マーサが書簡を出した1週間後に届いた。シスタークロエの事だから、きっちりとブロンズ王国政府にもお伺いを立てたのだろう。
返事が届くまでの間、6人の獣人の子ども達はマーサの実家で大人しく過ごしていた。ルーカス達も2日に1回訪ねた。が、子ども達はステラにばかり懐いて、ルーカス、ジョルジュ、サラには近寄ろうともしなかった。事情が事情だけに、ヒトをかなり警戒しているようだった。それでもマーサのことは信用しているのか、彼女の言うことはよく聞いていた。
そんなシスターマーサの実家だが、ルーカス達が尋ねると毎回「爺や」なる人物が案内してくれる。最初は気にしないようにと努めていたルーカス達だったが、日に日に気なっていき、ある時ついにサラが「あの、マーサさん。マーサさんは貴族のお生まれか何かなのですか?」と額に汗をかきながら本人に聞いた。
シスターマーサによると、マーサの父親は周辺の村々の領主で、セイレン国王から辺境伯の地位を授けられているそうだ。マーサは辺境伯家の次女で、上に兄と姉が、下に弟が二人いる。マーサは昔から父親とそりが合わず、14歳を迎えたその日に家を飛び出し、隣のブロンズ王国の教会に保護され、以降シスタークロエの元に身を寄せているという。
初めて聞いたシスターマーサの身の上話に、ステラは目を丸くして驚いた。ステラより付き合いの長いルーカスも、驚きのあまり口をあけたまましばらく動けなくなっていた。
マーサによると、辺境伯家が指揮する騎士団があるらしく、なんと騎士リチャードの父親はその騎士団の団長だったと言うから驚きだ。マーサと騎士リチャードは幼い頃からの知り合いだったのだ。
マーサは懐かしそうに騎士リチャードとの思い出話を語ってくれたが、ふと我に返ったように黙り込み、「ごめんなさい。わたしばかり」と言ってそれからは一切騎士リチャードの話題を出さなかった。
騎士リチャードが亡くなっていくらかの時間が経ったが、やはりマーサの心には未だに大きな傷が残されているに違いなかった。
シスタークロエからの返事は、6人の獣人の子ども達を孤児院で受け入れるというものだった。書簡を呼んだマーサは早速子ども達をブロンズ王国に連れて行くと言い出して、馬車の手配をした。
ルーカスとステラも一緒に孤児院に戻ることにした。サラはまだ父親の商売が残っているので、セイレンに留まることにした。学校の休みもまだ残っている。騎士トーマスと騎士マイクが残るので、ジョルジュも必然的に残ることになった。
サラは「せっかくみんなと楽しい休暇が過ごせると思ったのに、こんな大変な事になるなんて、ごめんね」と、みんなを誘った張本人ゆえの責任を感じていた。ルーカスもジョルジュも気にしていないと明るく声を掛け、ステラも自分の事を汁ことができた。ありがとうと感謝を述べていた。またゆっくり会おうと約束し、ルーカスとステラはブロンズ王国へと帰っていった。
二人がブロンズ王国に戻ってから3日後、セイレン王国では王都への獣人立ち入りが禁止となっていた。隣国ブロンズ王国での獣人による国王暗殺と、自国領内の獣人の村が異端者の集落だったことが理由とされている。
あのままステラが残っていたら、どうなっていたか。ルーカスとステラはゾッとした。
セイレン王国の声明が発表されてから少しして、サラとジョルジュ達も戻ってきた。二人は孤児院を訪ねてきてくれて、ルーカス達がセイレンを去ってからの出来事を話してくれた。
聖女ルーナシアが騎士団を率いて、セイレン領内の獣人の村を回っているらしい。あの時のように、異端者の村を探しているのかもしれない。
また、セイレン大聖堂の周りの露店に武器を取り扱う店が増えてきたそうだ。
セイレン王国全体が何か大きな事をなそうとしているような、そんな印象を受けたとジョルジュは言っていた。騎士トーマスと騎士マイクは、滞在中に集めたセイレンの情報をブロンズ王国政府に提出したそうだ。
獣人を巡って、何か始まろうとしている。
ルーカスは眼帯で覆われた右目を撫でながら、父の形見の石ナイフと騎士リチャードの形見のロングソードを見つめていた。
もっと和やかな展開を迎える予定だった第2部でしたが、第3部へのつなぎとして不穏な形で終わりました。やはりお話を綴るのは難しいですね。




