第25話 虐殺/巫女の救い
ステラとシスターマーサは村中をくまなく探しまわり、5人の獣人の子ども達を保護した。ルーカスとジョルジュも民家に立ち入り、隅から隅まで探し回り、1人の獣人を見つけ出した。
大人の獣人は優先的に殺されてしまったようで、生き残っている者は誰ひとりとして見つからなかった。
子ども達はすすり泣きながら、身を寄せ合い震えていた。ステラはそんな子ども達に寄り添い、声を掛けていた。
シスターマーサはルーナシアと何やらずっと話し込んでいた。サラとジョルジュがそっと様子を覗いてきたが、もめている様子は無いようだ。
ルーカスは周囲の警戒を続けていた。騎士達は一度引き上げたあと、また何人か戻ってきて、物陰からこちらの様子を伺っていた。
ほどなくして、シスターマーサが話があると全員を集めた。
「この子達を孤児院に連れて帰ろうと思うのですが、それにはまずシスタークロエに事の次第を知らせる必要があります。それまでの間、この子達が過ごせる環境が必要になります」
「だったら私たちと一緒の宿泊所に・・・」
サラの申し出にシスターマーサが首を振った。
「ありがたいお話ですが、王都の中だと多分この子達は落ち着かないと思います」
「だったらどこに・・・」
ステラが不安げな表情でマーサを見つめている。
「・・・私の実家が、あります・・・そこにこの子達を・・・」
「シスターの実家・・・?」
シスターマーサはてっきりブロンズ王国出身だと思っていたが、セイレン出身だったのかとルーカスとステラは目を合わせた。
「シスターマーサのご実家は、王都ヴァナルガンディの外れ、この村からも比較的近い所にあります。そこまで私たちの馬車でご案内します」
聖女ルーナシアが静かに言った。騎士たちに命令を下した先ほどの姿が嘘のように、穏やかで清らかな表情をしている。
一行は早さっそく馬車に乗り込んだ。子ども達は村を離れたくないと泣き叫ぶ者もいれば、諦めたように俯いて感情を出さない者もいた。
ルーナシアは騎士たちと一緒の馬車に乗っていた。「私がいっしょだと、みなさんも子ども達も落ち着かないでしょうから」そう言ったルーナシアは、本当に先程までとは別人のようだった。
馬車は村のあるセイレン山を下り、王都へ続く石畳の街道に戻った。しばらく道なりに進むと、西に向かう道に入った。セイレン王国は南側と西側を山に囲まれており、馬車は西の山へと向かっていった。西の山は峠道が整備されている。馬車は峠までは行かず、小さな村で止まった。
「この村に私の実家があります」
シスターマーサが御者に詳しい場所を伝え、馬車が再び走り出した。後ろからルーナシアの乗った馬車も付いてきている。
馬車は村のほぼ中央で止まった。馬車から下りたルーカスの目の前には、立派な屋敷がそびえ立っていた。
「ここが私の実家です」
後から降りてきたシスターマーサが、緊張した面持ちで言った。
シスターマーサが屋敷の扉を叩くと、中から初老の男性が出てきた。
「はいはい、どちら様ですかな?・・・これは・・・マーサお嬢様・・・」
「元気そうですね爺や。お久しぶりです」
マーサを見た男性は、目に涙を浮かべていた。
「よくぞ、よくぞお戻りになってくださいました。さあ、どうぞお入りください。さあ!」
「ちょっと待ってください爺や。実はお願いがあるのです。お父様はいらっしゃいますか?」
ルーカス達は客間に通され、マーサとお父様の話が終わるのを待っていた。
「シスター大丈夫かな」
心配そうなステラに、ルーカスは「心配ないよ」と声を掛けた。
「そういうルーカスも心配そう」
「う、うるせえ」
ステラの指摘にルーカスは顔を背けた。ステラがフフッと笑う。村で村長の話を聞いてから、ずっとこわばった表情をしていたステラだったが、少しだけ肩の力が抜けたようだ。
村長の話の後にあんな事が起こり、落ち着いて話をする暇もなかったが、後から沢山話をしようとルーカスは思っていた。
「お待たせしました、みなさん。子ども達はしばらくこちらで預かってくれるそうです。それで、私もしばらくここに滞在することにしました」
「宿泊所には戻らないのですか?」
「ええ、屋敷の人たちに全部押し付けるわけにはいかないし。子ども達も、戸惑ってると思うから」
ルーカスの問いにマーサが答える。
「みんなは宿泊所に戻って頂戴。それから、この書簡を孤児院に届けるように、お願いしてもらっていいかしら」
そう言ってマーサはサラに書簡を手渡す。
「わかりました。パパにお願いしてみます」
そうして、マーサと6人の獣人の子ども達を残して、馬車は王都ヴァナルガンディへと帰っていた。
宿泊所に戻ってから、サラは父親に今日一日の出来事を話した。マーサからの書簡は早馬ですぐに運ばれることになった。
ジョルジュは騎士トーマスとマイクに、村で獣人達を虐殺した騎士について相談していた。
そしてルーカスは、ステラと二人、テラスお茶を飲みながら、夜空を見上げていた。
「・・・」
「・・・」
「ねぇ、ルーカス」
「・・・なんだ」
「ルーカスって、本当に優しいね」
「・・・」
空を見上げたまま無言のルーカスを見つめ、ステラはニコリと微笑んだ。
自分が何者なのか、どうして森をさまよっていたのか、今日一日であっさりと分かってしまった。村長の話を聞いているあいだ、恐ろしくて恐ろしくて、身体の震えが止まらなかった。ルーナシアが村人の粛清を命じた時、少しだけスッキリした自分もいた。だが、訳も分からず家族を殺された子ども達を見て、悲しむ自分もいた。
本当の自分がわからない。記憶も完全に戻っているわけではなく、どこか他人事のように感じている部分もある。ただハッキリしているのは、自分にはもう家族がおらず、帰るべき場所もないということだった。
けれど、今隣にルーカスがいる。こうして寄り添ってくれている。それだけが、ステラにとって、大きな救いだった。




