第23話 生贄/巫女の真実
星語りの巫女ステラは、身寄りのない獣人であったが、ある時から神の声が聞こえるようになった。ステラは神ヴァナルガンドの啓示を聞き、獣人もヒトも関係なく救い、施しを与えた。やがて多くの人々の信仰を集め、彼女は聖女と呼ばれるようになった。
しかし、ある時ステラはヒトの青年に恋をしてしまった。ステラと青年は結ばれ、やがて子を成した。生まれてきた子どもは、ヒトの見た目をしていたが、獣人のように頑丈な身体を持っていた。
子どもを生んでから、ステラには神の声を聞くことができなくなっていた。だが、ステラはその事を誰にも言わないままでいた。神の啓示を伝えてくれない聖女に対して、民衆は少しずつ不満を抱き始めた。
そして、大地震が起きた。当時の王国は債権不可能にまで壊滅し、周辺の国々もまともに機能している所はないほどだった。多くの人が路頭に迷い、飢えて死んでいった。
こんなことになったのは、神の啓示を教えてくれなかった星語りの巫女のせいだという気運が高まった。民衆はステラを捕らえ、高い高い山の上で磔にした。そして、神ヴァナルガンドへの生贄と称して、山の頂上の切り立った崖から突き落とした。彼女を突き落としたのは、彼女と同じ獣人種たちだったという。ヒトはステラの死を悲しみ、聖女の選出と崇拝を始めた。獣人はそのまま山に住み着いて、定期的に神ヴァナルガンドに生贄を捧げるようになった。
「と、いうわけで、私たちがその獣人の子孫なのです」
話し終えた村長は、大きく息をついた。
当代の聖女ルーナシア・エルメスターは、村長の話をメモした紙を綺麗に折りたたんで懐に大切にしまいこんだ。
「なるほど。村長さん、貴重なお話をお聞かせいただいて、大変ありがとうございました」
にこやかに告げるルーナシアの姿は、まさに聖女と呼ばれるにふさわしい気品を放っていた。村長が頬を赤らめながら「い、いえ。滅相もない」と恐縮そうに呟いている。
「それで、こっちのステラは・・・?」
腕を組み、立ったまま話を聞いていたルーカスが口を開いた。ジロリと睨みつけられ、村長が「ヒッ」と仰け反った。
「ス、ステラはこの村の生まれです。ステラの母親は他所から来た娘でした。父親はこの村で生まれ育った男でしたよ。二人はステラが3つの頃に流行病で死んでしまい、それからは父方の親戚の家を転々としていました。そして、4ヶ月前に、ヴァナルガンドへの生贄として、山の峰から落としたのです」
村長の話を聞いていたステラは、俯いたまま身体を震わせていた。シスターマーサとサラが、ステラの背中を優しくさすった。
「なるほど、生贄の風習ですか・・・」
ルーナシアが興味深そうに呟き、顎に手を当てて考えていた。しばらくその姿勢で考えた後、ルーナシアはパンと手を叩いて顔を上げた。
「やはり、あなた方は排除した方がいいみたいですね!」
そう言うと、ルーナシアは懐から小さな竹笛を取り出して、思い切り吹いた。
「ルーナシアさん何を!?」
シスターマーサが笛を止めようと手を伸ばす。シスターに抑えられ、ルーナシアの笛の音は途切れた。
「フフフ、笛の音はしっかりと届いていると思いますよ」
聖女ルーナシアがニタァと笑みを浮かべたかと思うと、村長の家のドアが蹴り開けられた。
「聖女様、ご無事ですか!」
鎧を着込んだ騎士が4人、駆け込んできた。
「ご苦労様です、みなさん」
ルーナシアが騎士たちに手をふる。
「な、ななななななんなのですかこれはぁぁぁぁぁ?」
絶叫している村長に、一人の騎士が近づき、手に持っていた剣を村長の胸に突き刺した。
「え?」
村長は間抜けな声を出して絶命した。
「さあ、聖女様。参りましょう」
騎士は村長のことなど気にもしていない様子で、ルーナシアに話しかけている。ルーナシアも、村長が刺されたというのに、まるで気にしていないようだった。
ゆっくりと騎士に引かれながら立ち上がったルーナシアは、またもやニタァと笑を浮かべた。
「さあ、異端者に罰を与える時間です」
聖女ルーナシア・エルメスターが騎士たちに命じた。




