第20話 聖堂/セイレンの聖女
セイレン到着です。
ブルース・ミラー一行がセイレン王国の王都ヴァナルガンディアに到着したのは、夜も深くなる頃だった。道中で賊を縛り上げた一行はその後、騎士マイクによって知らせを受けた騎士が来るまでの間、賊が逃げないように見張っていたのだった。そのせいで、予定よりもだいぶ遅れた到着になってしまっていた。
「いや~すっかり日が暮れましたな~」
参ったなと言う様に、ブルース・ミラーが頭をか掻く。
「私がもっと手早く賊を始末できていれば良かったのですが・・・」
それに対し、騎士マイクが申し訳なさそうに呟いた。
「ああ、違うんですよマイクさん!そういう意味で言ったつもりじゃないんです!」
ブルースがあわてて訂正に入る。
「パパったら、騎士に向かって失礼な事を・・・」
「お前も見習いとはいえ騎士である俺を少しは敬えよ」
サラに食ってかかるジョルジュだったが、サラの強烈な睨みに負けて顔を背けてしまった。
そうこうしているうちに馬車は目的地に到着した。
そこはブルースが勤める商会の宿泊所であった。
「本当にここに泊まるのパパ?」
不満そうにサラが言う。
「な~に、立派なもんじゃないか!手入れもされてるし。俺たちが来ることはこっちの奴らに伝えてるから、中もすぐ使えるようにしてくれてるんだぜ」
ぷ~と頬をふくらませたサラは無視して、ブルースは宿泊所の中へ入っていった。
「ほら、お前も荷物運べよ」
そう言ってジョルジュも後に続く。騎士マイクと、もう一台の馬車から降りてきた騎士トーマス、ルーカス、ステラ、マーサもそれに続いて宿泊所に入っていった。
「も~、置いていかないでよ!」
一人取り残されたサラは憤慨しながら門をくぐっていった。
宿泊所は2階建てで、1階に広間と食堂とバスルーム、2階に宿泊室が備わっていた。一人1部屋で泊まることになっていた為、みな適当に自分の部屋を決めて荷物を運び込んだ。
ブルースは馬車の二台に積んだ商売用の積荷を降ろす作業に入り、残った7人は夕食作りに取り掛かった。
最初はサラが野菜を切っていたが、包丁使いがあんまりなのでルーカスが変わることになった。普段から森でとってきた獣を捌いたりしているルーカスは、包丁の扱いだけは上手だった。
ルーカスが刻んだ食材を、ステラが鍋に入れて調理していた。シチューを作るらしかった。
手際よく調理に勤しむ二人を見て、ジョルジュとサラは「夫婦か・・・!」と心の中で思ったが、口には出さなかった。
出来上がったシチューは好評で、鍋いっぱいあったはずなのにすっかり空になってしまっていた。調理に貢献できなかったので、とジョルジュとサラが片付けをすることになり、他の者はみんな部屋に帰っていった。
ジョルジュとサラはサラを洗いながら、ルーカスとステラについて話し始めた。
「昼間の話の続きだけど」
「昼間の話・・・?なんだっけ」
「だから、ルーカスとステラの!」
「ああ~、もういいだろう。さっきの二人で料理してるところを見たら、さすがの俺でもお似合いだなあとは思うよ」
「そうよねぇ。そうなるわよねぇ」
「・・・サラ?もしかしてお前、ルーカスに気がある?」
ジョルジュの発言にサラは瞬間的に耳まで真っ赤になってしまった。
「なっ、ばっ、バカじゃないの!?なんでそうなるのよ!」
「いや、だって、同じ話ばかりしたがってるから。そうなのかな~って」
「違うわよ!やめてよね、そういうこと言うの」
「だったら、好きなやつとかいるの?」
いつもより少し真剣な顔をして、ジョルジュが問いかけた。
「誰か別に、好きなやつ、いるの?」
ジッとサラを見つめるジョルジュ。サラは自分の頬が熱くなるのを感じ、視線をそらした。
「べっ、別に今はいないわよ」
「・・・そうか」
それっきり二人の間には会話もなく、食器を片付けてどちらともなく部屋に戻っていった。
次の日の朝、ブルースは騎士二人を連れ立って、運んできた荷物の納品に向かった。
ルーカス、ステラ、ジョルジュ、サラ、マーサの5人は、王都ヴァナルガンディの見物に出掛けることにした。
「まずは服を見てきたいわね。それからランチはヴァナルガンディでも評判のお店でしょ、それからまた服を見て、あーバッグも欲しいかも・・・」
サラは先程から一人でブツブツ言っていた。あんまり不気味なので、みんな少し距離をとっていた。ステラでさえ1m離れて歩いていた。
「せめてステラだけでも傍にいてあげなよ」
ルーカスが慈悲深い眼差しで言ったが、ステラは首を横に振っていた。
「ステラって、時々容赦ないよな」
結局5人はサラの指定したルートを巡ることになり、服を買い、バッグを買い、ランチを頬張り、すっかり疲れ果てていた。
「なんか、ヴァナルガンディって広いな」
ルーカスがベンチに座り込んで言った。
「あちこちに立派な店があるんだよ。王都じゃもっと一箇所にまとまってたから」
ジョルジュがルーカスの隣に座りながら言う。それを聞きながら、そういえばそうだなと、ブロンズ王国王都を思い出すルーカスであった。あれ?そういえばブロンズ王国の王都ってなんて名前だっけ?
「なあジョルジュ。ブロンズ王国の王都って」
「すいませ~ん!!!!!!!」
ルーカスの言葉を遮るように、甲高い女性の声が響いた。
「誰かたすけてくださ~い!!!!!!」
ルーカスが声の方を見ると、ひとりの女性が男たちに囲まれていた。男たちの頭の上には、獣人の証である耳が生えていた。
「こんな街中で不埒な真似しやがって!」
いち早く飛び出したのはジョルジュであった。それに続いてルーカスも飛び出すが、ジョルジュのスピードは早く、あっという間に男を一人殴りつけていた。
「一人目~!」
続いてルーカスが男を蹴り飛ばす。その隙にジョルジュが女性の手を引いて逃げ出した。
「おいおいおい~!坊ちゃんたちなんなんだあ!いてっ!なんだコレいてっ!」
追いかけてくる男たちにルーカスが石ころを投げつけたていた。
ステラ、サラ、マーサも一緒に走り出し、一行は静かな住宅地に逃げ込んだ。
「あ、ありがとうございます!このご恩は必ずお返しします!」
「いいんですよお嬢さん。騎士として当然のことをしたまでです」
お調子者の血が騒ぎ、ジョルジュがいいカッコをつけようとしていた。
「まあ、騎士様でしたのね!なんて頼もしい!!」
「騎士は騎士でも見習いだけどね~」
サラがぼそりと呟いた。
「お前!余計なこと言うなよ!」
「本当のことじゃない・・・」
いつもより若干刺のある言い方でサラが言う。
「あらあら、お二人はとても仲良しなのですね」
「「仲良くない!!」」
ジョルジュとサラが綺麗にハモった。
「と、ところであなたは、何故獣人に襲われていたのですか?」
シスターマーサが女性に問いかける。女性はマーサを上から下までジーッと見て、その顔を覗き込んだ。
「あなた、ブロンズ王国の協会のマーサさんね!」
「えっ、そうですけど。なぜそれを?」
「あら、だって私、教会に所属してらっしゃる方のお名前は全部覚えていますのよ」
「あなたも聖ヴァナルガンド教会の方なのですか?」
「ええ、私、この国で聖女をさせていただいております、ルーナシア・エルメスターと申します!」
セイレン到着から一晩開けるまで、ダイジェストでお送りしました。




