第18話 護衛/旅の道連れ
サラ・ミラーの突然の誘い(?)から1週間後、聖ヴァナルガンド教会孤児院の前に、2台の馬車が停まっていた。
ルーカスとステラは、結局サラに言われるがまま、一緒にセイレン王国に向かうことになったのだった。そもそも何をしにセイレン王国へ行くのかも聞いていない二人は、不安で胸がいっぱいだった。
「あんたたち、何を辛気臭い顔してるのよ。荷物はもう積み込んだの?」
「あ、あぁ。俺の分もステラの分も積んだよ」
「言われたとおり5日分の荷物を用意したけど、セイレンまでは馬車で半日なんだよね?5日分は多いんじゃないかな」
「はぁ?何言ってるのよステラ。セイレンには1ヶ月程留まる予定なのよ?最低でも5日分の着替えはないと、洗濯が間に合わないわよ!」
「・・・」
「・・・」
サラの言葉に沈黙するルーカスとステラ。二人は顔を見合わせて、間抜けに口を開けていた。
「あの、サラさん?セイレンにどのくらい留まるって?」
「はぁ?だーかーらー、私の学校が夏休みだから、その間セイレンでバカンスするって言ってるの!」
「「そういうことは早く言ってよ(くれよ!)」」
ルーカスとステラの声がこだました。
孤児院の外で少年少女が騒いでいる頃、孤児院の中ではシスタークロエとシスターマーサが何やら神妙な面持ちで話し合っていた。
「あの、シスタークロエ。やはり私だけ休暇をもらうというのは気が引けるのですが」
「この期に及んでまだそんな事を言っているの、あなたは?」
「ですが・・・」
「あなたはここに来てからずっとよく働いてくれています。それに、騎士リチャードとあなたの事、私が何も気付いていないとお思い?」
「シスタークロエ・・・!」
「深く追求するつもりはないわ。それに、騎士リチャードはもう・・・」
「・・・」
「正直、ここ最近のあなたは随分無理をしているように見えたから」
「・・・」
「年配者のお節介かもしれないけど、少しでも気が紛れるならと思ってね」
「・・・」
「だから気にせず行ってきなさいマーサ」
そう言って優しくマーサを抱きしめるシスタークロエであった。
マーサの荷物を馬車に積み終わった頃、騎士見習いのジョルジュがやってきた。彼の他に騎士トーマスと、騎士マイクもやってきた。
「ジョルジュ!トーマスさん、マイクさん!どうしたんですか!」
久しぶりの仲間との再開に喜ぶルーカスであった。
「よぉルーカス。すっかり元気になったみたいだな」
「あれから2ヶ月以上経ってるからな。すっかり回復したよ」
そう言いながら笑顔を浮かべるルーカスの右目にはステラが贈った眼帯が巻かれていた。それを見たジョルジュは優しい笑みを浮かべるのだった。
「ルーカス、改めて、リチャード副団長を看取ってくれたこと感謝する」
騎士トーマスが右手を差し出しながら握手を求める。それに応じるルーカス。
騎士マイクも同様に握手を求めてきた。ルーカスは今すぐにでもリチャードを慕っていた二人の騎士に、あの戦いの事を話したかった。しかし、ステラやサラ、マーサがいるこの場で話すことは憚られたため、静かに頷きながら握手をした。
「さぁ、準備が出来たところで、今回のバカンスはこのメンバーで行くわよ!」
唐突にサラがしきり始めた。ルーカスとジョルジュが目を合わせて苦笑した。そういえば、サラは昔から仕切り屋なところがあったっけ。
「ゴホン、ゴホン!サラ!!」
馬車から誰かが降りてきた。見覚えがあるなとルーカスとジョルジュが思案していると、その人物はサラの額にデコピンを食らわせた。
「痛いパパ!何するのよ!」
「調子に乗りすぎだぞサラ!このバカンスは行商も兼ねてるんだからな!」
男性の正体はサラの父親であった。どうやら馬車の中で積荷の確認をしていたらしい。
「みんな、娘がすまないな。今回はさっき言ったとおり商会の仕事も兼ねていてな。セイレンに滞在中は商会の宿泊所を使うんだが、その代わりに少しばかり仕事を手伝ってもらいたいんだが、いいかね」
そういうことか。とルーカスは合点がいった。ステラもようやく事の次第が分かったようで、うんうんと頷いている。
「もちろんですよ、おじさん。俺たちに手伝える事があればなんでも言ってください」
「私も、頑張ります」
ルーカスとステラが意気込んでいる。
「おじさん!俺も使ってくれよ!」
ジョルジュも元気にはねている。騎士トーマスと騎士マイクは護衛任務の為に紹介から雇われているが、ジョルジュは見習い騎士なので二人について来ただけだったのだ。
「私も、お手伝いします」
マーサもみんなと同じように応えている。
「ありがとうみんな!さぁ、出発よパパあいた~~~~~~~~~っ!!!!」
威勢よく号令をあげたサラの頭頂部を、父親のチョップが襲った。
役者が揃いました。