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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第二部 セイレン王国編
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第17話 眼帯/ルーカスとステラ

 第14期サベッジ山脈調査隊は、出発から僅か2日後に国王を暗殺したと思われる獣人の一団と遭遇、交戦し、多大な被害を被って撤退してきた。

 この話はブロンズ王国のみにとどまらず、近隣諸国まで広がっていた。調査隊の総数97名のうち、生きて帰ったのは42名だけだった。犠牲者の中には、将来を有望視されていた騎士たちも名を連ねており、ブロンズ王国新国王の最初の王令が大失敗に終わったことが世間に知らしめられた。

 この結果に腹を立てた王国政府は、調査隊団長のウィルソン・ベーカーを騎士団から除隊させた。これには多くの騎士たちが反対の声を挙げたが、逆らう騎士たちが次々と騎士団から除隊させられると、やがて声高らかに異を唱える者はいなくなった。


 騎士見習いのジョルジュ・レーガンは王都に戻ったあと、すぐに『北の騎士団』への異動願いを提出した。あの戦いで、剣の師と呼べる存在であった騎士リチャードが死んだことは、ジョルジュにとって大きな衝撃だった。そして、リチャードの死に、親友であるルーカス・ウェイカーが関わっていることも、ジョルジュに今後の事を考えさせる大きな材料になった。

 異動願いを出したジョルジュは、まだ願書が受理されてもいないのに、調査隊で同じ班だったトーマスとマイクを頼りに、王都から『北の騎士団』駐屯所に移り住んだ。

『北の騎士団』は団長ウィルソンの除隊と、副団長リチャードの戦死で慌てふためいていた。新しい団長の座を巡って、いくつもの派閥が出来ていたが、最終的にはウィルソンの右腕で、『北の騎士団』最年長の老騎士カークスを団長に据え、なんとか落ち着きを取り戻そうとしている。

 ジョルジュはトーマスとマイクに師事し、二人の技を学ぶことに決めた。故郷を襲い、師を殺した獣人を、自分の手で倒すために。





 ルーカス・ウェイカーは孤児院に戻って数日身体を休めた後、また以前のように森に潜るようになった。今までのように獣を狩ってきたり、山菜を採取してきたりしており、その振る舞いに変わったところは見られなかった。

 しかし、シスタークロエやステラは気付いていた。ルーカスが、日に日に傷だらけになっていることに。

 ルーカスの右目は、剣で切りつけられ、眼球が傷つけられていた。医者からは視力が回復する事はないと言われており、ルーカスもそれを受け入れていた。受け入れたルーカスは、これまでとは少し変わった視野に慣れる為、森の中でわざと足場の悪い道を通ったり、屈強な獣に勝負を挑んだりしていたのだ。

 いつも傷だらけになって帰ってくるルーカスを手当するのは、いつの間にかステラの仕事になっていた。

 ルーカスが孤児院に帰ってきて早2ヶ月。この日もルーカスは傷だらけで帰ってきており、ステラが傷の手当をしていた。


「今日はどこまで行ってきたの?」


 ルーカスの右腕に包帯を巻きながら、ステラが問いかける。くるくると包帯を巻く手つきは、慣れたものだった。


「今日は川の近くまで行ってきたよ。昨日の雨で増水してたから、引き返してきた」


 穏やかな表情で答えるルーカス。


「ルーカスにしては、まともな判断・・・」


「あんたやっぱり失礼だな」


「・・・あんた呼び禁止。やっぱりそれ、他人行儀で嫌い」


「・・・村の方言みたいなものなんだよ。仕方ないだろ」


「サラとジョルジュは使ってない」


「あいつらは・・・村の外によく出掛けてたし・・・」


「ルーカス、言い訳が苦しい」


「言い訳じゃねぇ!」


 いつものやり取りを繰り広げながら、ルーカスは感じていた。やはりステラといると、復讐に囚われていた心がまるで溶けていくように、穏やかな気持ちになれると。リチャードが死んだことが、まるで嘘であったように、和やかな気分になれると。


「ルーカス、ルーカス?次は背中の傷を見るから、上着脱いで」


「あ、ああ」


 言われるがまま、上着を脱ぐルーカス。その背中には幾つもの切り傷が付いていた。


「木の枝、獣の爪・・・剣の切り傷?騎士団にも顔を出してきたの?」


「あ、ああ」


 手当をしながら一つ一つの傷をじっくり見ているステラ。傷の原因を次々と当てていくステラに、ルーカスはなんで分かるんだと疑問を持たずにはいられなかった。

 それにしてもまさか騎士団に行っていたことさえ見抜かれるとは、と素直に驚いた。


「ルーカスって、嘘つけないよね」


 プッとステラが吹き出した。


「・・・ハメたな!」


 ルーカスはステラにカマをかけられたことに気付いた。二人はしばらくの間笑いあった。



 傷の手当が終わり、ルーカスが上着を着ていると、ステラがゴソゴソと何かを取り出した。


「ルーカス、これ」


 ステラが持っていたのは眼帯だった。


「これ・・・」


「ルーカス、この間王都の目医者に行った時、街の人からジロジロ見られて嫌そうだったから。目の傷、隠したほうが、目立たないかなって・・・」


 視線を伏せながら告げるステラ。ステラはルーカスの家族の敵が眼帯をしていることまでは知らない。


「や、やっぱり変だよね。す、捨てるね」


「いや、もらうよ。ありがとうステラ」


 右目に眼帯をつけ、ステラに微笑みかけるルーカス。


「どうかな?」


「うん、かっこいい」


 ステラは笑顔を浮かべてそう言った。





 コホンと咳払いをする声が、部屋に響いた。笑い合っていたルーカスとステラはドキッと飛び上がった。


「そろそろ話しかけていいかしらお二人さん?」


 腕組をしてドアに寄りかかりながら、眉間に皺を寄せたサラ・ミラーが立っていた。


「サラ!いつからそこに!!」


「どうかな?うん、かっこいいのクダリから居たわよ」


「部屋に入るならノックくらい・・・」


「したわよ。何度も何度も何度も何度もノックしたわ!ノックの音が聞こえないくらい盛り上がってたのかしらねえ」


「「・・・」」


 サラの追求につい口を閉ざしてしまう二人であった。


「まあ、いいわ。あんたたち私と一緒にセイレン王国に行くわよ!」


「・・・」


「・・・」


「なんか言いなさいよ!!」



サラ・ミラー参上。

次回、セイレン王国への旅立ち。

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