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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第二部 セイレン王国編
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第16話 眼帯/獣人の国

このお話から第2部となります。

 月明かりを頼りに、鬱蒼とした森を進む一団がいた。みな一様に大きな体躯をしており、頭の上には獣人の証である耳をピョコンと生やしていた。一団の中には背負子(しょいこ)に怪我人を乗せて運んでいる者もいた。

 先頭を歩く獣人もまた、背負子に怪我人を乗せていた。


「あー、グレゴリーよぉ。もう少しゆっくりあるいてくれねぇか?揺れる度に足の傷が疼く」


 背負子に乗って運ばれている男が、自分を運んでいる男に文句を言う。しかし、言われた方は無視を決め込んで、歩く速さを変えようとはしなかった。


「あー、グレゴリー副隊長?隊長からのお願いなんだからよぉ、少しは聞いてくれてデッ!舌噛んだぞ!」


 背負っている隊長が舌を噛んだ事も気に止めず、グレゴリーは黙々と進んでいた。心なしか先ほどよりも歩みが早くなっている。


「あー、グレゴリー?お前もしかして機嫌悪いの?怒ってんの?なんで?」


 なんで?どうして?と子どもの様に連呼する隊長を、グレゴリーはひたすら無視する。しばらくすると飽きたのか、隊長が静かになった。グレゴリーが内心少しだけホッとすると、「あー、お前らにグレゴリーの恥ずかしい昔話をしてやる」と、今度はグレゴリーの後ろを歩いていた獣人たちに話しかけ始めた。


「隊長!いい加減にしてください!!怪我してるんですから、少しはおとなしくしててください!!!」


 堪忍袋の緒が切れたグレゴリーが大きな声で怒鳴った。普段、物静かなグレゴリーの、こんなにも苛立った姿を見た部下たちは、ビクッと身体を震わせた。


「あー、いいかグレゴリー、こんな乗り心地の悪いモンに乗って、こんな山道を進んでんだぞ。おとなしく寝てなんていられるか?」


 小馬鹿にした様な口調で、隊長がグレゴリーに反論する。それを聞いているグレゴリーの顔はピクピクと引きつっていた。自然と乱暴な足取りになるグレゴリーから距離を取り、部下たちは事の次第を見守る事を決めた。否、できるだけ巻き込まれないように、二人から離れることにしたのだ。

 フルフルと肩を揺らすグレゴリーが爆発したのは、隊長から「あー、そんなイラついてると嫁に逃げられるぞ?」という言葉が発せられた直後だった。



「ところで隊長、眼帯どうしたんですか?」


 小一時間上司に説教をしたグレゴリーは、晴れやかな表情をしていた。彼の後ろを歩いていた部下たちも、グレゴリーがいつもの落ち着きを取り戻したことに安堵した。ただ一人だけ、生気の抜けたような顔で、隊長が揺られていた。


「あー、さっきまでさんざん人を怒鳴りつけてからの後腐れのない切り替えの早さ。嫌いじゃないぜグレゴリー」


 疲れきった表情で部下を評する隊長に、「ありがとうございます。光栄です」と淡々とした口調で返すグレゴリーであった。


「で、眼帯は?あれはこの任務の前に我らが王から賜った高価な物だったのでは?」


「あー、あれは敵に取られちまった」


「え?」


「あー、だから、敵に鷲掴みにされて取られたんだよ。仕方ないだろう?」


「・・・」


 内心、「もう知らねーぞ」とすっかり呆れてしまったグレゴリーは、この任務が終わったら、除隊しようかなあと真面目に考え始めるのであった。



 それからも獣人の一団は、行軍を続けた。川の近くで休息をとりつつ、3日、4日と歩き続けた。その間に、何人かの怪我人が息を引き取った。獣人たちは死んだ仲間を埋葬し、祈りを捧げた。

 そうして進み続け、彼らがサベッジ村から撤退して10日目の朝、ようやく森を抜けた。



 森を抜けた先には小さな民家が数件立ち並び、一面に畑が広がっていた。獣人たちは畦道を抜けて、開けた道に出た。そして、その道を進みこと半日。太陽が真上に昇る頃、ついに目的地にたどり着いたのだった。

 獣人たちの目の前には巨大な城壁が立っていた。そして彼らは、巨大な門の前に立っていた。グレゴリーが門番に通行許可証を見せると、門番たちは快く開門してくれた。

 門をくぐった先には、石畳が敷き詰められ、家々が立ち並んでいた。そして、街を行き交う人々には、全員に獣人の証である耳が生えていた。


 街の中心にまた城壁がそびえ立っていた。グレゴリーが門番に通行許可証を見せると、今度は門番によって一人一人が身体検査を受けて中に入れられた。

 壁の中にはまた街が広がっており、往来にはヒトが行き交っていた。道行くヒトは獣人の一団を見つけると、嫌悪の表情を示し、彼らから離れていった。

 やがて、一団の前からヒトっこ一人いなくなった。そうしてまた獣人たちは歩き始めた。

 そしてたどり着いたのは、周りの建物よりも一回り大きなお屋敷だった。


 例によって通行許可証を提示してお屋敷に入る獣人の一団。お屋敷に入り、広い廊下をしばらく歩くと、広間に着いた。獣人たちの目の前には小さな椅子が備え付けられていた。


「あー、疲れた~」


「いや、隊長は乗ってただけでしょう!」


 グレゴリーがきれた。「だいたい隊長がそんなだから」そう続けようとしたグレゴリーを遮るように、広間に笑い声が響いた。


「あっはっはっはっは!相変わらず騒がしいな君たちは!」


 現れたのは、見た目40~50代程の男性だった。男は獣人たちの前に備え付けられた椅子に腰掛けた。獣人たちは男の前に整列して、膝をついてかしずく。

 隊長もグレゴリーの背中から下りて、かしずいた。


「あー、我らが王よ。アズール・フェンリル・ウォーカー他、獣人部隊計18名、只今長期遠征任務より帰還いたしました」


 隊長アズールが声たかだかに唱えると、椅子に座っていた男が口を開いた。


「大儀であったアズール。それに副隊長グレゴリー・フェンリル・ロハス。君も大変だったな」


「あ、ありがたきお言葉っ!我らが王と我らが故郷の繁栄の為、今後も力を尽くす所存です!」


 グレゴリーの声は上ずっており、緊張しているのがわかった。


「あー、我らが王ヴィクティム・ニューブロンズに、報告することが山ほどあります。どうかお時間をいただけないでしょうか?」


「勿論だアズール。私もかの国が今、どのような状況なのか、詳しく聞きたいからね」


 そう言ってニコッと笑顔を浮かべる王の頭の上には、獣人の証である耳は生えていなかった。


獣人サイドのお話でした。

眼帯の獣人の名前はアズール・フェンリル・ウォーカー。

彼の部下で副隊長をやっている獣人の名は、グレゴリー・フェンリル・ロハス。

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