第14話 死闘/信念
騎士リチャードが、眼帯の獣人とルーカスの間に立つ。その剣先は、獣人に向けられていた。
「さあ、今度は僕とて合わせ願おうか?隊長くん」
「あー、俺は隊長なんて大層な役職じゃないんだけどな」
「どうかな?僕の読みは案外当たるんだぜ」
最後まで言い終わる前に、獣人が動いた。一瞬でリチャードの懐まで飛び込み、脇腹に剣を突き立てる。獣人の刃は鎧と鎧の隙間から入り込み、ザグッと何かに刺さった。
「いやはや。さすがに早い。やっぱり、備えといてよかった」
刺されたはずのリチャードは痛がる素振りも見せず、先程までと変わらない様子で釣っ立っていた。
「リ、リチャードさん!!」
あまりに異様な光景に、ルーカスの方が声を上げる。
「心配するな少年。ちゃんとしたに帷子を着込んでいるから、少々刺されたくらいでは傷にならん」
リチャードはニコリと笑顔を向けたあと、獣人の腹を思い切り蹴り上げた。呻き声を上げながら地に伏した獣人に、すかさず剣を刺そうとするリチャードだったが、獣人の素早い回避により、傷を負わせることはできなかった。
「あー、思ったより剣が刺さらなかったな」
「獣人と戦うのは初めてだからね。それなりに備えさせてもらった」
そう言うとリチャードは、着込んでいた鎧を脱ぎ始めた。
「あー、どういうつもりだ?」
「君の速度に対応するには、少々荷物でね。なあーに、心配いらないさ。もう攻撃を喰らうつもりはない」
「あー、ヒト様は本当に、俺をイライラさせるのが上手だな」
再び獣人が動いた。が、今度はリチャードも同時に距離を詰めるべく動いた。
ルーカスの目の前で、ものすごい速度で剣と剣がぶつかっていた。
速度は獣人の方が上だが、一撃一撃の重さはリチャードの方が優っているようだった。リチャードの一撃を剣で捌くたび、少しずつではあるが獣人の身体に負担がかかっていた。それを知ってか知らずか、リチャードは更に一撃一撃に力を込めて叩き込んだ。次第に獣人の顔に疲労の色が見え始めた。
リチャードが目を光らせて、今までよりも速い剣を打ち込んだ。獣人は怯むことなく飛び込んで、リチャードの剣は獣人の左肩に切り込んだ。
鮮血が吹き出るが、獣人は気にすることもなく、そのまま自分の剣をリチャードの腹に突き立てた。剣の勢いに押されて、リチャードが倒れこむ。獣人はそのまま剣を離すことなく、更に力を込めて剣を押し込んだ。苦痛に歪むリチャードの顔を見て、獣人の顔が歪む。
「リチャードさん!!!!」
ルーカスがナイフを片手に走り込んでくる。
「来るな少年!」
そう言ってリチャードは思い切り剣を振り、獣人を叩き倒した。
そうして、今度はリチャードが獣人に剣を突き立てた。リチャードの剣は、獣人の右足に突き立てられていた。
「これで逃げられまい」
リチャードが安堵の息を漏らした瞬間、獣人の蹴りが、リチャードの側頭部に叩き込まれた。一瞬だけフラついたリチャードだったが、その間に獣人はリチャードの腹に剣を突き刺した。
「リ、リチャードさああああああん!!!!!!!!!!!!!」
今度こそ完全に貫通したその剣は、大量の血を散らせていた。
次回、第1部完の予定です。