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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第一部 ブロンズ王国編
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第13話 帰郷/再戦

 ルーカスとジョルジュは副団長リチャードの「起きろ!敵だ!」という声で目を覚ました。

 テントの外は既に喧騒に満ちており、幾つもの松明が行き交っていた。


「夜の戦闘になる、敵が獣人だった場合、俺たちは圧倒的に不利だぞ」


 騎士甲冑を身につけながら、リチャードが班員たちに説く。


「この班で固まって行動する。敵を見つけても不用意に飛び出すなよ」


 ルーカスの方を見て、リチャードが言った。

 コクリと頷くルーカスであったが、内心ではすぐにでも飛び出していきたい気持ちだった。今、この近くに家族の仇の眼帯の獣人がいると思うと、どうしようもなく気分が高揚した。


「ルーカス、あんま興奮するなって」


 ピシッと、ジョルジュがルーカスの額にデコピンを食らわせる。


「いっ、何すんだよ!」


「お前のことだから、リチャードさんの言う事なんか聞かないだろうからさ。せめて、冷静になるようにな」


「・・・ありがとう」


 先程までの気分の紅葉を思い返して、素直に感謝の言葉を口にするルーカスであった。


「副団長、マイクが戻りました。」


 騎士トーマスが素早くテントの入口を開いて、騎士マイクを招き入れる。ルーカスが起きる前に、騎士マイクが哨戒に出ていたらしい。

 騎士マイクがリチャードに外の様子を耳打ちする。その様子を見ながら、志願兵の青年ライナーは膝を抱えて座り込み、身体を震わせていた。


「わかった。ご苦労だったな、マイク。よし!では諸君、我々もテントを出て、戦闘に加わることになる。改めて問おう。戦う覚悟はあるか?」


 そう言ったリチャードは、ジッと班員たちの顔を見回した。志願兵のライナーだけが、顔を伏せていた。


「ライナー、君は山を降りて、王都にこの状況を伝えてくれ。おそらく、明日中には調査隊が登ってくるだろう」


 リチャードに声をかけられたライナーは、ビクッと身体を震わせた後、顔を上げてコクコクと何度も頷いた。そして、スッと立ち上がったかと思うと、すぐさまテントの外に出ていってしまった。


「さあ、行こうか!」


 副団長リチャードの声で、残った班員たちが一斉にテントから飛び出した。





 サベッジ村を囲むように展開していた獣人部隊は、村の中心を目指すように、徐々に囲いを狭めていた。それに応戦する形で、調査隊の騎士達は外に外にと、獣人部隊の包囲網を突破しようと奮闘していた。

 団長のウィルソンは一箇所に兵力を集め、一点を集中突破する作戦を立案し、各班に通達していた。通達を受けた班は村の中心に集まり、ジリジリと迫ってくる獣人を警戒しながら、包囲網突破の作戦を練り上げていた。

 副団長リチャードの班もそれに合流すべく、村の中心を目指していた。しかし、思いのほか獣人の進撃は早く、ルーカスたちは獣人の猛攻に耐えながら移動することとなっていた。


「一人切ったらまた一人出てきて、きりがない」


 息を切らしながら騎士トーマスが言った。


「気持ちを途切れさせるな!また足音だ」


 騎士マイクが息を切らしながら発破をかける。


「二人ともだらしがないぞ。少年たちの方が元気じゃないか」


 リチャードが前の方を指差した。その先には、ルーカスとジョルジュが走っており、二人は巧みな剣さばきで、飛び出してくる獣人をなぎ倒していた。


「あの二人、いい騎士になりますね」


「将来有望だ」


「君らにも、あのくらいの活躍を期待したいんだけどね」


 やれやれといった風に、リチャードが言った次の瞬間、目の前を走っていたルーカスが方向転換をして走り去ってしまった。


「ルーカス!何処へ行く!」


「すぐに合流します!ごめんなさい!」


リチャードの呼びかけにも静止せず、ルーカスは行ってしまった。

 ジョルジュが申し訳なさそうな顔で、リチャードの顔を覗き込む。


「はあ、トーマス、マイク、ジョルジュ。君たち3人はこのまま団長に合流してくれ。私はルーカスと一緒に、敵の指揮官と思しき獣人を叩く」


 そう言ってリチャードは、ルーカスが走り去った方向へと走って行ってしまった。





 突然走り出したルーカスが向かったのは、昼間にきた墓地だった。少しだけ高台になっているここからなら、村全体を見渡すことができる。そうすれば仇をみつけることも・・・そう考えての行動だった。


「あー、なんだい。ヒトの部隊は村の中央に集まってると思ったが、こんな所に来る奴がいるとはなあ」


 墓地には先客がいた。月明かりに照らされたその獣人は、右目を眼帯で覆った、紛れもなくルーカスの敵であった。


「あんた、俺の事がわかるか?」


 ルーカスの声が震えていた。


「あー、なんだって?どこかであったか?」


 獣人はまだルーカスが誰なのか気付いていないようだった。


「つい最近、王都で会っただろう?」


「あー、坊主・・・あの時の・・・クソ生意気な」


 ゆっくりと剣を構えながら、眼帯の獣人がルーカスに近づいてきた。ルーカスも腰の短剣を抜いて構えた。


「あー、しつこいねえ、坊主。しつこいのは嫌いなんだよ」


 ゆっくりと歩いていた獣人が、大地を蹴ってルーカスの眼前に迫る。探検を構え、獣人の剣檄を返すルーカス。

 少しバランスを崩したその瞬間に、今度はルーカスが探検を突き立てる。が、すぐに後方に飛び、剣は空を切る。


「あー、前より動きがいい・・・」


 厄介だ、と言いながら、獣人が再度加速をかけてくる。今度は剣で叩くように攻めてくる。ルーカスは俺を全て短剣で受け止め、弾き返すが、少しずつ手にしびれが出てきた。

 ガンガンと何度も叩いてくる剣の衝撃で、ルーカスの手も限界だった。

 ひときわ重い一撃をくらい、ルーカスの手から短剣が弾かれた。そのまま剣が振り下ろされ、ルーカスの体に傷を付ける。

 歯を食いしばって痛みに耐えながら、ルーカスは腰元から父の形見の石のナイフを取り出す。

 ルーカスの構えた石のナイフを見て、獣人が吹き出す。


「あー、そんなおもちゃで、なんとかなるとでも?」


 三度飛び込んできた獣人めがけて、ルーカスは石ころを飛ばした。獣人の顔に幾つもの石が直撃し、獣人が左目を閉じる。その瞬間に、ルーカスが獣人の懐に飛び込む。

 獣人が目を開けた時、眼前に石のナイフが迫っていた。獣人は咄嗟に顔をずらし、ナイフが空を切る。

すぐさま距離をとるルーカス。


「あー、痛えなあ」


 首をゴキゴキ回しながら、獣人が言う。


「あー、そろそろ終わらせようや」


 そう言った獣人が、今までよりも素早くルーカスの懐に飛び込んだ。振り下ろされる剣を両眼で捉えたルーカスだったが、身体が反応しなかった。

 これまでかと思ったその時、ルーカスの身体が横からの衝撃で跳ね飛ばされる。

 獣人の剣は何も切ることなく、地面を叩いた。


「あー、よこから割り込むとは。さすがヒト様は汚い」


 茶化す様に獣人が言う。


「君が、隊長かな?獣人くん」


 騎士リチャードが、ランスを構えながら立っていた。


「あー、面倒なことばかりだ」


「そう言わず、今度は僕と付き合ってもらおうか」


次回、リチャードvs眼帯の獣人

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