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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第一部 ブロンズ王国編
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第10話 出立/訓練

 朝もやの晴れ切らない時間、剣戟の音が孤児院の子ども達の目を覚ます。ステラもまた、他の子ども達と同じように、不本意ながらベッドから身を起こした。カーテンと窓を勢いよく開け放ち、音の主を突き止める。


「少年!もっと早く!俺の動きを見て!予測しろ!」


「そんなこと言ったって!」


 3日前から始まった騎士リチャードの個人レッスン。生徒は勿論ルーカス・ウェイカーである。

 ルーカスがサベッジ山脈調査隊に志願することを宣言した日、なぜかは知らないが騎士リチャードがルーカスに剣を教えると言い出した。

 そもそもルーカスに調査隊に加わって欲しくないステラはこれに猛反対したが、反抗虚しく、ルーカスは朝早くから日が沈むまで、剣に溺れる毎日を過ごしていた。


「二人とも、そろそろ朝ごはんにしたら?」


 激しく剣をぶつけ合っていた二人がピタリと止まる。

 シスターマーサが優しげな表情で、二人にサンドウィッチを差し出す。

 シスタークロエと共に、こういた事に一番に反対しそうなシスターマーサが、二人の応援をしている。この奇妙な事実が、ステラには引っかかっていた。ルーカスが調査隊に志願するといった日、ルーカスがシスターマーサの部屋の前で聞き耳を立てていた日。獣人であるステラには、部屋の中で交わされていた会話の内容が、聞き取れていた。

 シスターマーサの様子がおかしいのはそれからだった。

 だが、ステラは聞こえた内容を誰にも言うつもりはなかった。ステラにも、少しだけわかる気がしたし、まだ早いような気もしたその話を、今はまだ胸の内に秘めておこうと、そう思ったのであった。





 リチャードの個人レッスンが始まって4日目。調査隊に加わる為、ジョルジュが王都からやってきた。先日、ルーカスの志願宣言の後に無理やり追い出された恨みを、ジョルジュは忘れていなかった。あの日の王都までの帰り道、サラからチクチクと嫌味を言われ続けたのである。

 そんなジョルジュが孤児院を訪ねて最初に見た光景が、騎士リチャードと剣を交わす幼馴染の姿であった。


「おまえ!羨ましいぞ!!」


 素直な感想が口から溢れていた。


「君は騎士見習いだな!いいぞ、君も来い!」


 ルーカスを軽くいなしながら、騎士リチャードはジョルジュを招き呼んだ。感激したジョルジュは荷物を投げ捨て、剣を帯び、個人レッスン中の二人に駆け寄ったのであった。

 この日から、リチャードの生徒が二人になった。





騎士リチャードの個人レッスン、6日目。明日はいよいよサベッジ山脈調査隊の出発の日だった。


「少年もジョルジュも、なかなかの仕上がりだ」


 騎士リチャードは満足げにそう言った。この数日の特訓で、幼かった二人の剣技が、いくらか見られたものになった。それが純粋に嬉しかった。


「少年。君のナイフを見せてくれないか」


「?どうぞ」


「このナイフ、君の父上の形見だったな」


「・・・はい」


「今まで、このナイフを研いだことはあるかい?」


「そういえば、ないです・・・まずいですか?」


「いや、問題ない。ありがとう。このナイフは大切にしろよ。きっと君を守ってくれる」


 そう言ってリチャードは、ルーカスに石のナイフを返した。


「さあて、ジョルジュ。君には僕の剣をひと振り譲ろう」


「え、ええええええええ!!!!!」





 騒がしい男たちのやり取りを、遠くからステラが眺めていた。結局ステラは、ルーカスを説得することができなかった。この数日、ずっと説得を続けていたが、ルーカスは聞く耳さえ持ってくれなかった。


 俯きながら立っているステラを、ルーカスはじっと見つめていた。


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