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ステラズ・クロニクル  作者: 森田ラッシー
第一部 ブロンズ王国編
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第9話 騎士/決意

前回の続きです。

 ドスドス足音を鳴らしながら廊下を歩く獣人の少女ステラと、その後を追いかけるルーカス・ウェイカーの姿を、孤児院の面々は疑問符を浮かべながら見送っていた。


「ルーカスやっと出てきたのかー!」


「ルーカスお肉ー!」


「ルーカスなにしてんのー!」


「ルーカスなにしたのー!」


「ステラ怒ってるのー?」


 相変わらず好き勝手な事を口にする子ども達に、一言一言律儀に返事をしながらステラを追いかけるルーカスは、先ほど見たシスターマーサと騎士リチャードの様子を思い出していた。


「ルーカス!」


「うわっ」


 目の前をドカドカ歩いていたステラが、こちらを振り返っていた。


「な、なに?さっきのことなら、あれは不可抗力で・・・」


 先ほどの覗きの弁解をしようとするルーカスだが、喋りかけた彼を遮るようにステラが舌打ちをする。森で拾った少女は、いつの間にこんなにもたくましくなったのだろう。


「ルーカス、お客さんが来てる」


 ぶっきらぼうにそう言うステラの向こう側に、見知った顔が並んでいた。


「よお、ルーカス。元気そうでなによりだな」


「ううう、ルーカスゥゥゥ」


 いつもより元気のない顔で手を挙げるジョルジュと、歯を食いしばって涙をこらえているサラが立っていた。





「俺、調査隊に加わることになったんだ」


 3人が食堂のテーブルに着いて、開口一番にジョルジュが告げた。


「ルーカス、この馬鹿になんとか言って!」


 続けてサラが、ジョルジュを睨みつけながら金切り声を上げる。


 これから1週間後に派遣されるサベッジ山脈調査隊に、騎士見習いであるジョルジュも参加することになったのだ。サベッジ村出身で、村周辺の地理にも詳しいジョルジュに声がかかるのは当然であった。しかし、この調査隊の派遣が、森を超えてきたと思われる獣人の賊を見過ごした『北の騎士団』への見せしめだという事を、ジョルジュは理解していた。そして、過去に派遣された調査隊が誰ひとりとして帰ってきていないことも。


「死にに行くようなものだって、わからないの!?」


 サラの怒号が食堂に鳴り響く。寝起きのルーカスの頭には、少々毒だ。「どうぞ」と、ステラが3人に水を配る。「ありがとう」と、水をガブ飲みしてサラも少し落ち着きを取り戻す。


「ジョルジュが調査隊に加わるのは、昔から言ってた騎士の名誉の為?」


 ルーカスが問う。ルーカスには、ジョルジュが考えなしに無謀な派遣に加わるとは思えなかった。自身が口にした問いも、多分見当違いなんだろうなと感じていた。


「それもあるが、何より、俺は賊が憎い。村を襲った奴らかもしれないんだろ賊は?」


「なんでそれを・・・」


 言いかけてルーカスは、自分がシスタークロエに話した事が王国政府に伝わっているのだと感づいた。シスタークロエのことだ、仕事はきっちりと果たすはず。とすれば、調査隊の派遣には、自分も一枚噛んでいることになる。王国政府がこんな子どもの戯言を真に受けているのもおかしな話ではあるが・・・。


「とにかく俺は、騎士の誇りにかけて、賊を許せねえ。それだけなんだよ」


「だから、騎士見習いでしょあんたは!せっかく生き残った命を、また危険にさそうとするなんて!」


 サラが食い下がる。


「騎士になった時から覚悟はできている。家族と別の道を生きると決めたのも、覚悟あっての事だ。それにサラ、俺は死ぬつもりはない。武功を上げて帰ってきて、サベッジ村の復興を成し遂げたいんだ」


「村の復興って・・・なによそれ」


「騎士として名を上げれば、領地をもらえる。俺は、サベッジ村を貰って、村をもう一度立て直したいんだよ」


「なによそれ、勝手にかっこつけて・・・」


 サラは既に赤くなっていた眼を、更に赤くしながら泣いていた。ステラがすかさずハンカチを手渡す。


「わかったよジョルジュ。俺はあんたを止めない。そのかわり、俺も志願するよ、調査隊に」


「「「!!!」」」


 ルーカスの発言にジョルジュ、サラ、ステラは言葉を失った。





 日が沈む前に王都に帰った方がいいと、ルーカスはジョルジュとサラを無理やり返した。二人共、ルーカスの調査隊志願には最後まで反対しているようだった。


「ルーカス、私も、反対」


 二人を見送り、部屋に戻ろうとしたルーカスの前に、腕組みしたステラが立ちはだかる。


「・・・」


 今までにない気迫のステラに、ルーカスも気圧されていた。


「あの日、ルーカスに何があったのか、私はよく知らない。シスタークロエも教えてくれなかった。でも、行かないで欲しい。サラの言っていたこと、死にに行くようなものだって私も思うから」


 一言一言に力を込めて、ステラが語りかける。出会ってから僅かな間の付き合いになるが、本当にたくましくなったものだと、ルーカスは感じていた。だがそれでも―。


「それでも俺は、行くよ。決めたんだ。ごめん」


 トンっと肩をぶつけて、ルーカスはステラの脇をすり抜けていった。肩のぶつかったステラは、よろけてその場に座り込んでしまった。





「レディにおいたは、感心しないな、少年」


 部屋の扉を開けようとしたルーカスを、騎士リチャードが呼び止めた。ルーカスは先ほどシスターマーサの部屋で、彼とシスターが何やらもめていたのを思い出して、気まずくなった。


「少年も、調査隊に加わりたいのか?」


 モジモジしていたルーカスに、リチャードが投げかける。リチャードの顔は、よく見かける軟派な顔つきではなく、騎士のそれだった。


「はい」


 そう答えたルーカスに、リチャードは言った。


「これから出発まで時間がない。君を鍛えてやろう」



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