表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何を願って  作者: 文絵
97/101

第31章 連れていって 3

「魔術を使いすぎた。直撃しなくても、圧で十分だっただろうさ。悪いけど、見せてくれるかな」


 近寄って、跪く。晶は無言でハルを横たえた。ふらりと立って歩み出すのを、テミストと千梨が呼び留めかけたが、強くは言えずに見送ったらしい。


「……太陽の花がまだ残ってる!」


「あれは若返りの術であって生き返りの術じゃないよ」


「いいじゃないの!」


「本来の寿命の半分を越えていなければ効果はない」


 食い下がる千梨を黙らせたのはマリッカだった。


「愚かな子。自分のために生きることを知らぬまま」


「あたし、なのに」


 テミストが呟く。


「悪いのはあたしなのに。あたしを、あたしも、助けて……あたしたちを助けて……間違ってた、んですか?」


「結果がこうだ」


 レイが肩を竦める。


「いいでも悪いでもないよ。原因に見合う結果が返った。本人は満足だろう」


「それが愚かだと言っている」


「君はね」


「おまえには」


 マリッカはハルを見下ろした。


「おまえ自身の望みというものはなかったの?」


 そこに軽蔑の、また嫌悪の響きはなかった。弟にして弟弟子を、悼む言葉であったかもしれない。


 ──いずれにせよ、それを晶は聞いていなかった。


 晶は一点だけをみつめて、そこへまっすぐ向かっていた。急がなかったのは恐れがあったためだ。思い違いであったら──そうだと思ったものが、実はそうでなかったら。


 だが、それはもう目の前にあった。千梨たちを乗せてきた、空を駆ける馬車の扉に重なるように出現した〈扉〉。確かにそうだったとわかっても、心は特に動かなかった。


「……時には血水晶、時には夕日玉。色を変え、形を変える、かの秘宝の……在処へ」


 取り出した〈鍵〉を、鍵穴に挿す。かちりと回した。


「──アキラ!?」


 テミストが気づいて叫んだが、顧みなかった。開いた〈扉〉の向こうへと、晶は踏み出した。




 そこは高原であった。


 空気は涼しく、また薄いようだった。気圧の違うところへ急に来たためか、幾分頭が痛いようだったが、構う気にはならなかった。


 広々として、見渡す限り無人で、明るい黄緑の草が一面を覆い尽くしている。日光をちらちらと反射し、風にそよいではきらめいて、ガラス質の何か、それとも宝石の欠片のようだった。


 黄色の次は、黄緑色。


「ハルを……」


 言いさして、晶は首を振った。


「生き返ったら万事解決ってわけでもないな。テミストも、マリッカも」


 ははっ、とこぼれた笑いは乾いて自嘲のようだった。


「死んだ人間が生き返ってるんだぜ? それでもまだ、不満だなんて」


 それはいささか公正でない言いようだったかもしれない。秘宝を使った当人であるところのハルは、その結果を受け入れていた。認められなかったのは自分だ。いや、そのハルとて、マリッカのことは受容できていなかった。


 再び命を得たテミストは、しかしそれでは足りずに母を求めた。母だけでも足りずに故郷を求めた。ハルを捨てようとはしたけれど、本当は友であり続けることを望んでいただろう。


 再び地位を得たコトは、その地位を保ちながら長い人生を送りたかったに違いない。エルクを愛しい人と呼んだのが本心なら、何者にも邪魔されずに添い遂げたかったのかもしれない。


 ハルが死んでしまっては。蘇ったとしても、目の見えないままでは。視力が戻ったとしても、コトに脅かされ続けるようでは。コトが脅威でなくなったとしても、例えばマリッカに何かあったら。


 テミストが死んでしまっては。助かったとしても、ハルを売るようでは。ハルを二度と裏切らなくても、それゆえにエルクを敵に回しては。エルクが手を引いたとしても、例えばテュカに何かあったら。


 晶は受け入れきれないだろう。自分の身に起こったことでなくとも。


 贅沢なこと。それとも、当然のこと。


「なあ。俺は」


 揺れてはきらめく草の海に触れて、少年は囁いた。


「幸せで、いたい――よ」


 さああ――と。


 指先に生じた輝きが、草原全体に広がって――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ