第30章 ここに 1
不意に雷撃が宙を裂いた。
一拍遅れて、霧が広がる。いや、広がってはいかない、コトに押し寄せ包み込んで、コトの視界だけを塞ごうとしている。
「テミスト、来い!」
まっすぐみつめて、思い切り叫んだ。一瞬戸惑った風を見せてから、テミストは地面を蹴って駆け出した。
隣りでハルが立ち上がる。引き換えるように、否、事実引き換えに、晶はぺたんと座り込む。足に力が入らない。
「って、俺まだ動けるんだけど?」
「十分だよ」
足腰だけ。結局加減しているのだ。ひょっとしたら一時的に交換しているだけで、魔術を解けば元に戻るのかもしれない。根こそぎ搾り取っても構わないと言ったのに。
先に届いた雷撃は弾かれて消えたが、霧は散らされる気配はない。かといってコトが大人しくなったわけではない、霧の中から深紅の塊が飛び出し、空を切って少女と少年たちとの間に着弾した――浅い角度で地面に突っ込み、勢いを徐々に弱めながらも十メートル以上突き進んでようやく消えた。つんのめりながらもテミストは足を止める。どちらからも距離があったから、幸い直撃は免れた。
「落ちた跡は避けるように言って」
「そこ踏むな、通るな! こっち回って来い!」
腕を振りながら晶は声を張り上げ、頷いたテミストは方向を変えて再び走り出す。とはいえ警告されるまでもなかったかもしれない。深紅の塊が抉るように走り抜けた跡は、草も地面も赤黒く不気味に爛れている。
「今、予備の方使ってるんだ。しっかり見えてないから何かあったら教えて」
「わかった」
知識のない自分では見落とすかもしれない、などという不安は、今度はちゃんと黙っておく。
直接視力を譲り渡すのは、月の砂の代償を取り返そうとすることと同義になりかねず、危険だというので却下されてしまった。相性が悪いというやや漠然とした理由よりも、納得しやすい、というよりも、納得せざるをえないところではある。
霧の中からは断続的に、深紅の矢が降り注いだ。とはいえ勢いは控えめで、牽制なのかもしれなかった。だからといってテミストが避けずに突っ切れるわけでもない。ただでさえ遠回りをさせられているのに、足止めされたり逃げ戻ったりで、なかなか思うように近づいてこなかった。無論ハルも手を拱いてはいない、テミストを追うように薄い壁が次々と生じ、矢を防いでは破れて消えていく。はらはらしながら晶は見守った。
何ができる。自分に何ができる。盾になれたところで一回限りだし、今はハルにしか届かない。もしもハルが魔術を解いて足が動くようになっても、飾り紐の助けはもう得られないのだから、テミストには駆け寄ったところで間に合わないだろう。コトの方をどうにかしようにも、真正面からぶつかっては歯が立つはずもない。仮にこっそり大回りして気づかれずに背後から飛びかかれたとしても、さてそこでコトをどうできるというのだ。ケアルを押さえたときのように、しがみついてとにかく放さなければ、魔術を振るえなく、あるいは振るいにくくなるかもしれない──だが、その一縷の希望には、挑むだけの価値はあるだろうか。




