第28章 遂行 2
髪を元に戻してもらい、試しに自分の服に着替える。久しぶりの着心地に、懐かしいような慣れないような奇妙な感覚が湧いた。鏡を覗けば、目元の赤もきれいさっぱり落ちている。
そうしてみても、即ちここへ来たときと同じ格好になってみても、特に何かが起こるわけではなかった。
「自動的に送り返してはもらえないみたいね」
ゼラムの件が決着した瞬間、あの格好のまま地元に戻されたとしたら、勘弁してくれと秘宝を恨んだだろうけれど。
晶に頼らなくてはと、千梨は同郷の少年を脳裏に浮かべた。勝手についてきただけだと本人は言っていたものの、結果的には帰還方法の確保を担当してくれたことになる。
「ハルに知らせればいいかな?」
「お願いします」
レイはすっと視線を逸らした。
特に何をしているようにも見えなかった。しばらく無言ではあったし、心ここにあらずという風ではあった。が、魔術で言葉を、それとも思念を交わしている様子は、この人物が魔術師であるという前提を知らなければ、傍からではわかりづらい。
再び千梨に目を向ける。
「次に〈門〉をみつけたら知らせるってさ」
「あ、そうか、〈門〉自体を呼び出せるわけじゃないんだっけ」
「アキラ少年と別れがたいようだよ。いい傾向だ」
親しくしているということなのだろうが、よいことと言ってしまうのもどうなのか。
「チリの方は連絡待ち。マリッカは、次はどうする?」
「個人的な話をすれば、ケアルの黒幕を追いたい」
速やかな返答にいささか呆れた。あるのか、次が。
ケアルの証言は要領を得なかったらしい。焚きつけた者がいたこと、女であったこと、魔術を込めた道具をあれこれ与えたこと、トーランをも殺せとも明言したこと、隠す度胸もなく語ったようではあるが、肝腎のその女についてそもそも碌に知らなかったようだという。名前も外見も判然としなかったから、女の方で認識を歪ませる魔術を使ったかもしれない、というのがレイの見立てだった。
「父君が討たれていれば、義兄君が跡を継いだ。そうした面での混乱は起こらなかったろう。わたしの件と時期が近いから、民の間に不安は生じたかもしれないが」
ヒュレイは十分な領主となったろう。社会的な影響の度合いで言えば、例えばイリェの件とは並べられない。個人的な関心だ、とコルカ領主の娘は言った。
「チリの手を借りることではないが、付き合わせることになるな」
「またああいうお芝居に駆り出されなければいいよ」
千梨は肩を竦めた。
このとき、すぐに合流していたらと、想像することに意味はあるだろうか。




