表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何を願って  作者: 文絵
81/101

第26話 終わりゆく 4

 大分経ってから、ハルが思い成しか眉を寄せて寝返りを打った。またしばらく経って、仰向けになった。


「テミスト、アキラ……」


 小さな、とはいえ明確な呟きが聞こえた。


 いつしか半ば俯いていた顔を上げたところが、布団の端を握って涙ぐんでいるから慌てた。反射的にベッドから下りれば、気配を感じてか目がぱちりと開く。


「ハル」


「……ああ、そうか、夢」


「何、俺らに何かあった?」


 枕元から例の首飾りを取って、渡してやりながら意識して声をかける。ハルは一瞬首飾りでなく手の方をぎゅっとつかんだが、晶を困らせないうちに放して本来の目的を受け取った。


「アキラが帰るのを見送っててね。それまではテミストも一緒にいるつもりでいたんだけど、行っちゃったね、って振り返ったらいなくって。そうだった、って会いに行こうとしたら、何だかどこに行っても会えないの」


 入れ違いになって。見当違いの場所を訪ねて。どこそこに行ったらしいよと教わったのに、着いてみたら影も形もなくて。


「アキラに相談しようと思ってもいないしさ。起きてからも寝惚けてて、後はどこ捜したらいいんだろう、って考えてた」


「やな夢だな」


 晶はベッドに座り直した。もう落ち着いただろうし、見えているだろう。感じ取りやすい距離まで近づいてやらなくてもよい頃だ。


「まあ、夢だから。俺はまだいるよ」


「……夢はこっちかもしれないよ」


 首飾りを持つ両手が拳になる。


「だって、信じられなくない? まさか自分が異なる天の下に呼ばれるなんて」


「……え、あ、俺の夢って話?」


「鮮やかで、真に迫って、本当みたいな……でも、覚めたらそれっきりの、さ」


 怖いことも、悲しいことも、寂しいことも。夢であれば、憂えるには及ばない。寝覚めが悪くても速やかに忘れて、自分の現実に戻ればよいだけだ。


 自分の世界へ戻ったら、エルのことは夢と思って忘れてしまえ。その方がきっと、楽になる。そうした主旨のことを言おうとしたのだろうけれど。


「そっちの方がぞっとしないわ」


 晶は肩を竦めてみせた。真面目に受けてはいけないような、つきつめてしまうと怖い結論が待っているような予感がして、強いて軽い調子で返したかもしれない。


 自らに言い聞かせるまでもなく、本当に忘れてしまう可能性に、思い至りたくなかったのだ。意識の下では感づいてしまっただろうけれど。




 二人の前にぱたぱたと折り鶴が飛んできたのは、その日の午後のことだった。晶は気づかないハルを引き留め、指摘されればわかったらしいハルは掌を上にして手を揃え、その掌に折り鶴は舞い降りた。


「ハル、アキラ。早すぎると思うかもしれないけど、会いたくなっちゃった」


 テーベの外になるんだけど、見晴らしのいい丘があってね。森があってね。二人と一緒に歩きたいなとか、見たいなとか、……あ、その、行きたいなって、つい思っちゃって。


 訥々と、少女の声が告げる。折り鶴に話しかけているところを想像すると、おもしろいようでも微笑ましいようでもあった。


 ……なんか、くすぐったいな。会いたいって言われるなんて。


「タイミングよすぎ」


「今から行くよって返事していいかな?」


 そう訊いたハルも同じ気持ちだったかもしれない。


「本当に今から、その、すぐ行く?」


「でも、空飛ぶのは嫌でしょ?」


「……もっとゆっくり飛ぶとかしてくれたら」


「それは天馬にとって酷なんじゃないかな」


 そうは言ったもののしばし考えて、一回ぐらい我慢してもらおうかな、と独りごちる。そもそも伯母が車を貸してくれたらの話だとも呟いていたけれど、断られることはなかろうと晶は心配しなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ