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何を願って  作者: 文絵
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第26章 終わりゆく 3

「ケアルの子供が生まれたら、ケアルを飛ばしてその子供に行くかもしれないし。アケイルにこれから別の子供が生まれるかもしれない。ひょっとしたらケアルが改心するかもしれない」


「それはない」


「気持ちはわかるけど。っていうか正直そうあってほしいけど」


 つられるように、随分な本音を覗かせたものの。


「ともかく、イリェはもう大丈夫だよ。もう心配しなくていい」


 マリッカの弟は誇らしげであった。


 晴れやかな様子は久しぶりに見た気がする。友人のために、また幾分かはイリェのためにも、よかったなと自分も明るい気持ちになりながら、晶は何気なく話を戻した。


「あ、それで、何言いかけたの」


「……ちょうど今の話だと思うんだけど」


 その一言で急に萎れてしまったから慌てる。が、口火を切ったときを思い出せば、そういえば心楽しい話は始まりそうになかったのだった。


 やや俯いて、静かにハルは告げた。


「チリさんの役目は済んだみたい」


「……あ」


「レイさんから連絡があった。次に〈門〉をみつけたら知らせるって約束したよ」


「……そう」


 連絡を受けてから駆けつけるのでも、〈門〉が消える前に間に合うという目算があるらしい。魔術のことはわからないとはいえ、ケアルを止めに現れたときのことを思えば、なるほど大丈夫そうだ。


「アキラもそのとき一緒に帰る?」


「……の、かな」


 そう、とハルも晶と同じように呟いた。振り切るように、顔を上げる。


「じゃ、テミストのところに行かないとね」


「結構早かったな」


「ねえ」


 少年たちは苦笑を交わした。時間はもっとあると思っていた。




 やけに早く目が覚めた。


 寝直せる気がしなかったので、見切りをつけて晶は起き上がった。流石のハルもこのところ野宿は避けていて、夜を過ごすのはいつも宿屋でありベッドである。さして広い部屋でもない、ハルのベッドもすぐ隣りにあった。


 眠れそうにない割にぼんやりとした頭で、晶は友人の寝顔を眺めるともなく眺めた。ちょうど体を横に倒してこちらを向いていて、指を曲げた両の手が口元に重なっている。閉じている目は視点が定まっていないことを感じさせないし、青から黄へと変じてしまったことも思い出させない。


 後何回、近くで目覚められるだろう。


 ……いや、何も目覚めるときに近くにいなくともよいのだが。


 何も四六時中一緒にいたいわけではない。毎日顔を合わせたいというのでもない。週に一度、月に一度でも構わないのだ。せめて年に一度でも、……二度と再び叶わないことに比べたら。


 ――テミストに会いたい。


 離れた友人を想う。ついこの間まで近くにいた友人を想う。カウントダウンが始まったと思ったら、無性に恋しくなった。いや、カウントダウンですらない、そのときは唐突に訪れることになるのだ。テミストとの別れが正にそうであったように。


 ……〈門〉をみつけても、ハルが気づいていないようだったら。教えずに見過ごしてしまおうか。みつけたら知らせると約束したのはハルであって、自分ではない。


 狡いかな。……酷いかな。普通に見えてたら普通に気づくかもしれないのに。



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