第26章 終わりゆく 2
「……さっき、トーラニオって部分のこと言ったじゃん」
「……うん」
「ああ、だから、そうじゃなくて」
元気のない返事に晶は手を振った。何が『だから』で何が『そう』なのか、とは自分でも思った。
「説明してるときに『父称』って言ったじゃん。それがさ、俺には『父称』って聞こえて……だから、ええと、俺の方にもこの言葉あったんだなって思って」
「……ああ、アキラの国にはない文化なの?」
「ない。少なくとも今は」
「苗字が先に来るのも、エルとは違うんだものね」
「多分外国にあるんだよ」
名前の構成の違いについては、前にも少しだけ話したことがあった。ハルは興味深そうにしていたけれどテミストの食いつきが悪くて、長続きせず次の話題に流れてしまったのだが。おかげでまだ、手つかずだ。
無理に合わせた風でもなく、実際関心を引かれた様子で乗ってきたから、代わりの話題としては当たりだったらしかった。
「あのね、アキラ。言いそびれてたんだけど」
もう一つの噂が耳に入ったのは、気の進まない様子でハルが切り出したときだった。
「聞いたか! あのマリッカがイリェに現れたそうだ」
「幽霊がかい?」
「いや、生きて、だ」
晶はまず反射的に振り返り、次いでぱっとハルに向き直った。ハルが耳を澄ましているのがわかる。
稀代の魔術師マリッカは死んだのではなかった。冥府へ下り、ある人物を地上へ連れ戻したのだ。イリェの領主となるはずであった、ゼラムに殺されたアケイルを。アケイルを伴い、冥府の使者に伴われ、ゼラムの館に現れて、領主の座を返すよう命じたと噂は語っていた。
「そうやったんだ」
ハルは半ば嬉しそうに、半ば感心したように呟いた。
「冥府の使者って」
「チリさんじゃない?」
「じゃ、アケイルは? 本当は誰」
「本人だと思うよ」
さらりと言う。聞き違えたかと思った。
「レイさんたちが太陽の花を取りに行ってたでしょ。あれ、若返りの秘術に使うんだ」
非常に高度な術で、執行に必要な品々も容易に手に入らないものばかりだけれど。マリッカならば、行えた。
「途中で対象を一度死なせる必要があるんだ。血を全部抜いて、代わりに薬で満たすの。考えようによっては、既に対象が死んでても効果があるってこと」
「……それ、なんでマリッカにやらなかったの、あいつら」
「マリッカには効かないよ。効く対象に条件があるから」
レイの発案だったのだろうか。マリッカが復活する前から太陽の花を採りに行っていたのだから。レイにもその術は扱えたということだ、そうでなければ辻褄が合わない。
自身が殺した異父弟が生き返ってきたことに、ゼラムは流石に恐怖したのだろう。若返っていたのによく本人だと信じたものだとも思うが、偽物にしては似すぎていたのかもしれない、父親こそ違えど兄弟であれば相向かえばわかるのかもしれない。結果として領主の地位はアケイルのものになったという。ゼラムにはケアルと同じような制限でもつけたのだろうか。
「でも、それじゃ結局いつかはケアルが跡を継ぐんじゃないの」
「どうだろうね。アケイルが何歳まで若返ったかによるけど」
「……ああ、ケアルと同い年ぐらいまで戻ってたらあれか」
その場合は、アケイルが老いて没する頃には、ケアルも同等の年齢に達していることになる。




