表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何を願って  作者: 文絵
78/101

第26章 終わりゆく 1

 コルカ領主の市井に育った息子が、このたび正式に認知された。暴漢に狙われた領主を魔術で以て守ったという。


 その噂を初めて耳にした自分がどんな顔をしたのか、ハルに伝わっていないだろうことが、この際、悔しい。


「ちょっと。聞いてないんだけど」


「……言わなかったのに」


 ハルは頭を抱えた。


「マリッカは姉弟子だって言ったじゃん」


「姉弟子だもの。姉弟弟子のつもりでいるもの、ずっと。ルーシェ様だって、マリッカの姉上だっていうつもりでいるもの」


 隠したいから伏せたのではない、嘘は吐いていないからと誤魔化したのでもない。実感のままに、素直に話したのだ。素直に話すとそうなったのだ。マリッカやルーシェを姉であると、異母姉であるとことさら考えたことはないし、領主を父と感じたこともない。わざわざ言及しようとも思いつかないぐらい、意識の外にあったのだ。そのように語るハルは、比喩でなく頭が痛そうだった。


 ハル=トーラニオ=コルカイオ。コルカの支配者たる家系を示す姓と、トーランを父親に持つことを示す父称を添えたそれが、ハルのフルネームということになるらしい。これからは、と言うべきだろうか。認知されたのはつい最近なのだから。


「っていうか、あのとき本当はその話してたわけ?」


 トーランと、ルーシェと、マリッカと、ハルと。領主と、長女と、次女と、庶子――長男と。人払いをして、四人で。


「……僕はマリッカの役に立ちたかっただけなの。別に領主様が恩を感じることはなかったんだよ。目の心配だってしてくれなくてよかったんだ。……マリッカが、言うから」


「……寧ろそっちに知られたくなかったんだな」


 親を好かない晶としては、そこを咎める気分にはなれなかった。どういう親であるのかを知っているとは言えないけれど、少なくとも生まれたときには引き取ろうとしなかったのだ。


「あれ、じゃ、伯母さんは?」


「そのままだよ。領主様の姉上。魔術師になるときに完全に縁を切ったっていうか、家の記録から削除したんだって」


 縁は切ってないか、と訂正する。マリッカに対しては魔術師としての師匠になったし、ハルに対しては育ての親にもなった。が、恐るべきラリサとして世間に知られているためもあってか、生まれについては徹底して隠しているのだという。


「僕の方には、そういう事情はないけど。領主の館に住むわけでもないし、わざわざ発表しなくたってよかったんじゃないかな。大体、僕は今さらいいって言ったのに」


「今さらっていうか、目のせいなんだろうけど」


「大丈夫なのに」


「いや、普通は大丈夫だと思わないから」


 そこは何度でも指摘しておかなくてはなるまい。


「あのままあそこで暮らせってことだったんじゃないの」


 自身の命を救われたのだ。亡き娘を蘇らせたとも、そのために視力を失ったとも知ったのだ。これまで長らく放置していたとしても、流石に思うところがあったのだろう。


 嫌だよ、と息子はすげなかったが。


「僕はただのハルだよ。テミストがただのテミストで、レイさんがただのレイであるように。アキラ──は、カイドウ=アキラっていうんだっけ?」


「俺のとこは苗字は誰にでもあるから」


 支配層に属する証ではない。


「……それに、俺もただのアキラがいいや」


 海堂が親と同じ姓であるなら、晶は親がつけた名前だけれど。


 失明したハルに対して、トーランがそうだったように。行方の知れなかった自分に対して、両親も何か思うかもしれない。だからといって、それぐらいで自分が掌を返すこともなかろう。


 身分のような大層なことは関わらない。これまで頼らず生きてきたという自負があるわけでもない。それでも、少しは理解できる気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ