第24章 あなたのために 2
あっという間に片づいてしまった。
「ご無礼を。ケアルの対処を優先したもので」
ケアルが連行されていくと、レイは胸に手を当ててトーランに詫びた。とはいえ恐縮の気配は特にない。
「下がらせていただきます。どうぞ水入らずで」
一礼するや、青年の姿は掻き消える。杖の類を手にしてもいなければ、呪文を唱える様子もなく、それらしい仕草を見せることもなかった。ハルがおのれを卑下する原因の一端は、この魔術師にもありそうな気がする。
「マリッカ、あなた……どうして、今ここに」
「ハルがレイに知らせました」
おずおずと問うたルーシェは、その返答に少年たちへ目を向けた。自分が注目されたのでないことはわかっていたけれども、晶はつい身構えた。
光景として認識できていなかったとしても、これは耳で聞けば十分に把握できたろう。応じるべく口を開いたものの、ハルはどうしてよいかわからない風だった。マリッカまで駆けつけるとは思わなかったのか、自分に言及されるとは予想できなかったのか。
「一人で相手にできるとは限らなかったから……何をどれだけ隠し持っているかわからなかったから」
「ハル」
ルーシェはすっと歩み寄り、両手をハルの背に回して柔らかく抱いた。
「わたしたちはあなたに救われたのね」
「僕、は……ただ、占いみたいなもので。示されたことに、従っただけの」
「マリッカを返してくれた」
たどたどしい否定を遮って。
「マリッカを返してくれたわ」
涙声にこそ、ならなかったものの。そのすぐ手前では、あっただろう。当のマリッカは顔色一つ変えていなかったが。
姉妹なのだ。不思議には感じなかった。姉が妹に抱いていた複雑な感情を、少年は知る由もない。
ややあって、少年魔術師は自分を包む腕を押し退けた。嬉しそうでも照れくさそうでもない。微かに困惑が窺える程度で、表情は硬かった。礼を言われることは、慣れていないのだったか。
「済みましたから。もう行きます」
アキラ、と促すように呼んで、踵を返すのを。
「待ちなさい。ハル」
トーランが止めた。
従ったものの振り向かなかったハルは、別段身を竦ませてもいなかった。マリッカに睨まれたときとは、違って。
領主の方こそが、心を決めるときのように呼吸を一つ挟んだ。
「――話を」
そこでやっと晶は別室に移動させてもらえた。他の誰もが、ハルとトーランさえも面識があるようなのに、同席するのは居心地が悪くて閉口していたのである。使用人たちも遠ざけて、領主とその娘たちとハルと、四人で内密の話があるというのは、とはいえ少々奇妙な気もするが。部屋まで案内してくれた使用人に、何の話だろうかとつい何気なく尋ねてしまったが、困ったようにわからないと返ってきただけだった。
部屋の中にハルが現れたのは、三十分ほど過ぎた頃であったろうか。普通に扉を開けてくればよいのに、魔術で飛んできたから驚いた。
「帰るよ」
「あ……うん」
帰る、という表現が適切であるかどうかはさておいて、伸ばされた手を大人しく取る。ひゅん、と景色が飛び去って、瞬けば二人は野外にいた。
「……どこ」
「街の外。あそこから出てくるときはここって決めてるの」
その言葉は普通に考えて、あの館を訪れた経験が複数回あることを意味するはずだ。ベランダから出てきたルーシェの反応からしてもそのように感じられたし、マリッカの縁なのであろうから驚くことでもないけれど。
「えーと……どういう話になった?」
「今日のことは口外しないで。ケアルはコルカの外に追い出すって。どこに送り込むかはまだ決めてないけど」
そこは自分が口を挟むことではない、と言う。それはそうだろう。




