第23章 領主の館 4
「このっ、邪魔を……!」
「血水晶のことでの報復? それともマリッカの後ろ楯を潰そうっていうの?」
「邪魔をするな!」
怒鳴ると同時に、ばちんと物理的な音を立てて光の筋が切れた。え、嘘、こいつ魔術師だった!?
「――みんな離れてください! 魔術の道具を持ってる!」
今度は半透明の壁が、衝立のように幾つかそびえた。ケアルを囲んではいるものの、ぴっちりと隙間なく並んではいない。
ケアルはさっと何かを取り出して、正面の壁をそれで殴りつけた。一発、二発、三発目で手の中のそれと壁とが同時に砕け散る。その間に他の者たちは一ヶ所に固まって、ハルはその全員を守るように結界を張った。
結界の中のトーランへ憎々しげに目をやって、ケアルはハルの方へ踊りかかった。右手に短剣、左手は金槌だろうか。ハルは飛び退き、距離を取る。先ほどケアルを囲んでいた壁は、いつの間にか一つもなくなっている。
ケアルを中心に風の渦が生じ、しかしパシャンと水を散らすような音を立てて弾け飛んだ。どちらがどちらの術だったのか咄嗟にはわからなかったけれど、ハルが眉を寄せたのと、ケアルの腕の手甲がぼんやり光ったのとそのタイミングすると、ハルがしかけた魔術をケアルが弾いたらしい。
「何が目的なの!」
「……墓に立ち入ったのはおまえも同じだろう!」
短剣がひゅっと空を切り、ハルを掠めて壁に刺さった。一拍ずれて、金槌も飛ぶ。そちらもハルは躱したが、その次にはケアル自身が床を蹴って飛びかかった。あ、とハルの口から虚を衝かれたような呟きが落ちた。ケアルの右手は早くも新しい刃物を握っている。
「させるか!」
晶は背後からケアルにしがみついた。マリッカの墓では使いそびれた、赤と黄色の飾り紐に意識を向けて。
頭の中で叫んだ呪文は、ちゃんと効果を発揮したらしい。少年の腕は驚くほどすんなりと青年を押さえ込んだ。今の今まで姿は見えていなかったのだから、不意討ちとしても効果的だっただろう。振りほどこうともがく動きははっきりと感じるのに、自分がびくともしないのは不思議な感覚だった。
シャン、と鈴を鳴らすような音と共に、ハルから細かな光の粒が飛び散った。ありがとう、と息を吐いたハルは、ひょっとしたら動きを封じられていたのかもしれない。
友人の無事に安堵した、その瞬間に注意が逸れたのは仕方ない。目で視界を得ていないハルが、即座に気づかなかったのも仕方ない。ケアルは逃れようともがくのをやめて、両手をまた服のどこかに入れた。
「気をつけて!」
悲鳴を上げたのはルーシェである。はっとした途端、すぐそばに煙が立ち上った。足元なのか、ケアルの手元なのか、死角になっていてわからない。
「目くらましだよ、放さないで! 自分を巻き込むはずがないよ!」
「は、本気でそう思うか?」
一瞬不安も覚えたが、晶は腕に一層力を入れた。ケアルが自爆覚悟であろうとなかろうと、最悪の事態になる前にハルが防いでくれるはずだ。煙は一秒ごとに太くなり、しゅうしゅうと呻りを立て始め――。
「ケアル=アケイリオ=イリウス。許可なく境界を越えることを三年の間禁ず」
凛とした声が述べた。




