第22章 さよならを前に 3
「戻りましょ。折り方、教えて」
二人は店内に引き返した。ハルも作業を終えたようだった。
「ただいま」
「どのくらいわかるかなと思って、試しにちょっと見てたんだけど。投げたの? 随分遠くまで行ったね」
魔術で見る、というのはそういうことだ。壁に遮られていようと暗闇であろうと妨げにはならない。
晶はハルの手を取って、紙飛行機を指に挟ませた。
「こう持って、こう、前に動かしながら放すの」
「ふうん……これは」
そこで言葉を切ってから、よいことを思いついた、という顔をして微笑む。目で見たかったかな、と続くはずであったとは、無論、晶にもテミストにもわからない。
「こっちはアキラに届くようにしておこう。これはアキラ宛で、鳥は僕宛ね」
「鶴な」
「うん。あ、じゃあ呪文の中の『ハル』ってところは『アキラ』になるの?」
「え、呪文ってそんな長い?」
「アキラにあげたやつは、咄嗟のときにも使えるように短くしたから。これはそういう使い方はしないでしょ」
それからは折り紙講座の時間になった。紙飛行機はともかくとして、鶴の折り方をすぐに覚えるのはあまり簡単ではないだろう。途中経過を残しておいたら、と提案したのはハルで、晶は未完成の鶴を幾つも折った。テミストはペンを手に入れてきて、晶の知らない文字で番号を振った。
晶が生まれた天の下へ帰っても、懐かしくなったらこれを折ればよい。テミストが見出した慰めに、当の晶は気づかなかった。
少年たちは長居することなく、翌日には村を発った。
「なあ。ボイルの」
小さくなった村を振り返り、しかし、いいや、と頭を振る。
「ハルは何?」
こちらも何かを言いかけたのだ。
大したことじゃないんだけど、とハルは前置きをした。
「お兄様の話は出なかったなと思って」
「え、お兄さんいたの?」
「一回だけ聞いたことがあるんだ。クレイみたいなことになってたんだったら、触れられたくないだろうと思って訊かなかったんだけど」
クレイ。コトの息子だったか。あちらのテミストの異母兄になる。
「死んだんだっけ」
「海に落ちたんだよ」
ボイル領主の身内は誰も彼も、肖りたくない人生を送っているらしい。自分にとってはまず第一に自分の名前だと言い切る一方で、不吉でしょうと自嘲したくなってもおかしくないわけだ。
「きっと会えるよって言っちゃったけど。無責任だったかな」
ビーズと糸の塊に指を絡めて、考え込むようにハルは弄んだ。
兄はどこにいるそうだとも告げず、次は兄を捜すのだとも言い出さなかったことから推せば、明るい結論は導けそうにない。だが、兄の存在を知らなかったとはいえ、暗い気配も特に感じなかったわけで。あまり親しくなかったのだろうかと、やはり前向きでない仮説が浮かんだところで、晶は首を振った。
「捜してみようか……っていっても手懸かりがないか」
「名前も聞いてないや。わざわざ訊いて、思い出させたり変に期待させるのもなんだね」
本人が触れずにいるのだから、掘り返さないことにしようと二人は決めた。
友人という肩書きは、好きなところまで踏み込んでよいという許可証ではない。




