第22章 さよならを前に 2
短い辺が長い辺と重なるように、斜めに、正確には四十五度に、折り上げる。その折り目が対角線になるように、短い辺と平行にもう一つ折り目をつけて、指でよくよくしごいてから、開き直してテーブルに伏せる。
「切るの?」
「真四角にすんの」
手ではあまりきれいに切れなかったものの、一応正方形にはなった。晶はてきぱきと折り進めた。
「ほら」
「わ、何これ」
「鶴。折り鶴」
テミストは取り上げて顔の前に掲げ、わあ、羽と嘴になってる、と感嘆の声を上げた。それからいそいそとハルの手に載せれば、ハルは指で慎重に撫でて、ちゃんと鳥だね、と頷いた。
「僕のところに来るようにしておくから。後で飛ばすときの呪文教えるね」
片手で杖を握ったところを見ると、早速取りかかるつもりらしい。テミストは興味津々にハルの手の中を覗いている。
「これアキラが考えたの?」
「うちの国の文化、折り紙っつうの。専用の紙が売ってるぐらいメジャー。鶴なんてメジャー中のメジャーだな、願かけに千羽折ったりする」
「千っ?」
「あ、そういうときは小さい紙でな」
「ちっちゃいの!?」
一々リアクションの大きいことである。
「……折り紙が外国人にウケるって本当なんだなー」
「ねえ、幾つか作れる、アキラ? 魔法をかけても紙は紙だから、嵐なんかに突っ込んじゃうと駄目になっちゃうんだよ」
了解、と晶は二枚目を取り上げた。二羽目、三羽目を折っている間に、ハルは少し時間をかけて魔術を仕込み、扱い方をテミストに教えた。
何も鶴にこだわる必要はないのだったと思い出したのは、四羽目に取りかかろうとしたときだ。一々端を切って正方形にするのが面倒になってきたのである。長方形の紙でも折れる、飛ぶものといえば。
「今度はなあに?」
「紙飛行機」
「紙……?」
「飛行機。俺の世界にある、空を飛ぶ乗り物」
上手く飛ぶかどうかはわからないが。
こうやって、と構えかけて、店内で試すわけにもいかないと気づく。
「……ハル、ちょっとだけ外行ってくる」
「うん。僕はこれやってるから」
三羽目の折り鶴を光らせながらハルは応じた。魔術というものはどうも矢鱈と発光作用を伴うものらしい。
テミストを連れて外に出てみれば、案の定人通りはない。照明が月と星だけでは大分暗いのだけれども、一寸先がわからないほどではない。
晶は紙飛行機を放ってみせた。幸い、折り方も飛ばし方も、自覚以上に手が覚えていたようだ。見事に滑空して地面に下りたそれを、へえ、とテミストは目を輝かせて拾いに走る。ちゃんと飛んでよかった、と晶はことさら胸を撫で下ろしてみせた。
「これ自体が飛ぶのね」
「上手く行けば。失敗すると、こう、くるってなるんだけど」
「なあにそれ」
くすくすと笑ってから、閃いたという顔つきで構え、先ほどを真似て飛ばそうとする。紙飛行機はその手元で一回転して足元に落ちた。
「……こうなるのね」
「……まあ、折る段階で失敗すると多分どうやっても飛ばないから」
先ほどは上手く行ったのだから、これは練習さえすれば飛ぶだろう。
拾い上げて、砂を払って、手を止める。目をそこに落としたまま、しばし。
「ね。折り方教えて。これとさっきの」
「いいけど。折っただけじゃ魔術は入らないぞ」
「わかってるわよ」
馬鹿にしてるの、と頬を膨らませた。
「っていうか、アキラもハルと似てるとこあるわよね」
「は?」
「ハルだったら、アキラがあれを作ってくれなかったら魔術のかけようがなかったって言うところ」
「……そりゃそうだけど」
確かにハルはそういうことを言いそうだという点でも、確かに折り鶴も紙飛行機もなければあの魔術は使えなかったろうという点でも、同意するけれど。
「そっちは他の何かでもいいけど、魔術は使えなきゃ始まらないだろ」
「……アキラはハルのことどうこう言うのやめなさい」
通じてない、とでも言いたげに、テミストは肩を落としてみせた。




