第21話 力なき 4
事情を知っていたらしい店主は、ここはもういいからとテミスト共々その母親を追い出してしまった。住み込みで働いているようで、邪魔の入らない自室で再会に浸ってこいということらしい。
「娘さんは亡くなったと言っていたのよ。それが最近になって、生きてるらしいと噂を聞いたみたいでね。だけど探そうにも手懸かりはないし、あたしも旅費を貯められるだけの給金を出せるわけじゃなくてねえ」
感動、というより感激している様子で、舌が一向に止まらない。飲み物を注文して席に就いた少年たちは、テミストの連れかと問われて頷いた後は、しばらくの間専ら相槌ばかり打つことになった。ボイルからテーベまで流れてくるなんてね、と挟まったおかげで、ここがテーベであるとわかったのは助かることだったろうけれど。
「君たちはあの子とずっと一緒に?」
「ずっとでもないけど。女の子が一人じゃ危ないだろうって」
「それはそうだ。マリッカ様が亡くなってからはなおのことだよ」
ハルの目が見えていないことにもすっかり同情してしまって、苦労を推し量っては涙するものだから、ハルもいささか閉口したようだった。居合わせた客たちにも一切合財筒抜けになるわけで、音を上げた二人は宿を取るからと言って一度退散した。
小さな村で、宿屋は一軒しかなかった。しばらくするとテミストが追いかけてきた。どこに行ったのかと思ったじゃない、と唇を尖らせるので、一遍あの店主と話してこい、と晶はやり返した。一遍で済むかな、とハルは苦笑した。
「テミストはここでお母様と暮らすんじゃないの?」
「……そうね」
テミストは顔を曇らせた。
「ボイルにはもう帰れないって、お母様は言うの。あたしがいない間にいろいろあったみたい」
そこで、首を振る。それでも、それは些細なことだ。再会が叶った事実の前ではどうでもよいことだ。
そうしてまっすぐにハルを、恐らくはその目をみつめたことは、ハルにはきちんと伝わっていないだろう。表情までは読みにくいということだったから。
「ハルのおかげよ。全部ハルのおかげ」
「〈鍵〉が使えるんじゃないかって気がついたのはアキラだし、その〈鍵〉を作ったのはロアーデルだよ」
ハルは細部を訂正した。
「館のどこに置いてあるかも、使い方も、結局ロアーデルが教えてくれたし。ロアーデルの館を探せばいいって教えてくれたのはおばさまだった。テミストが杖を忘れたことに気がついたのもアキラだ。僕は――あの館も裏から入らなくちゃいけないってことに気がつけなくて」
「そんな風に言わないで」
顔を歪めて、テミストが遮る。両手でハルの手を握った。
「そんな風に、言わないでよ」
困ったようにハルは口を噤んだ。困るところだろうか、と晶は嘆息する。
「ハルさあ。そこは素直に、役に立ててよかったって言えばいいんじゃないの」
「……あ」
あ、じゃねえよ。
「ごめん。……お礼って言われ慣れてなくて」
マリッカ相手ではそうだったのだろう。
しばし躊躇って、少女の手を握り返したらしい。
「君の役に立ててよかった、テミスト。君がお母様と会えてよかった。楽しかったよ。アキラと二人でも楽しかったけど、君がいてもっと楽しかったよ」
ありがとう、と少年は結んだ。結局あなたがそう言うのね、と少女は半分呆れたような笑みを浮かべた。
後半が別れの言葉であったことに、誰も直接は言及しなかった。
目的を果たした今、同行の理由はなくなったのだ。




