第21章 力なき 2
「やっぱり俺のせいかな」
呟かれた。先ほどのテミストと同様に。
「〈鍵〉を取りに行ったの、俺のためだったし」
「あたしのためでもあったわよ」
「最初から人捜しだったら〈鍵〉には行かなかったと思うんだよ」
望みの場所に行くための手段。応用できそうだと考えたから、尋ね人をみつけるためにもそれを使うことにした。そういう順番だった。
テミストは首を傾げたらしい。
「でも、人を捜せる魔法なら、物も探せるんじゃないかしら」
「……あー」
確かに、そちらも応用できそうだ。
「やっぱ、いつかは思いついたかな。秘宝のことは」
あの秘宝ならば、マリッカを生き返らせることができる。そのことにさえ思い至れば、あとは同じことだったかもしれない。目的が明確で揺るがなければ、手段はどうとでもなるだろう。
「あるいは血水晶、あるいは夕日玉、あるいは小太陽、あるいは小満月」
何とはなしに暗唱する。あの秘宝のことを詠った、有名な詩文の一節なのだという。秘宝が色を変えていく、その順番を示してもいる。血水晶は赤、夕日玉は赤みの橙、小太陽は黄みの橙、小満月は黄色。ハルとカダが秘宝を指し示した言葉が、道理で一致したわけである。
黄色の次は黄緑になって、またどこか違う場所に行ってしまったはずだ。また近いうちに誰かが使うのだろうか。初めて知ったときに漠然と想像したよりも、かなり頻繁に人手に渡っているようだから。
溜め息を吐く。自分のせいというわけでもないようだと、初めて思ったわけでもない。何度もぐるぐる繰り返している思考だ。気持ちは晴れない。
「俺がここに来たの、マリッカが死んだすぐ後でさ。ハルはマリッカの役に立ちたがってたんだって……マリッカが死んでどうしていいかわからなくなってるだろうから、代わりに俺の役に立たせてやってくれ、みたいなこと言われたんだ。伯母さんに」
そのことについては、ありがとうね坊や、と言われた。十分な支えになっただろうと言われた。一方的に頼るばかりだったと晶は首を振ったのだけれど、そばにいるだけでよかったんだよと薄っぺらな励ましが返ってきた。
学校生活のような、どうということのない日常であれば、それで済んだかもしれないけれど。非日常に見舞われてしまえば、自分は酷く無力だった。ロアーデルの館でも、マリッカの墓でも。
それに、第一。
「別に俺がいなくたって……代わりなんてなくたって、よかったんだ。マリッカが死んでたって、マリッカの役には立てた」
生き返らせる、という離れ業が可能になる世界なのだ。弟弟子はそれを実行した。
今度はテミストが溜め息を吐いた。
「あたしたちって、ハルにとって何なんだろう。……気持ちの問題じゃなくて」
「わかる。気持ちの問題じゃなくて」
「ね」
しばらく、何度目かの沈黙が下りた。
「コトの話って知ってるんだっけ」
「──え、えっ?」
口を利いたのが突然だったためか、それとも話題が飛びすぎたためか、少女は動揺したようだった。
「ボイルの?」
「そう。領主の前の妻、だっけ」
敵視される可能性があるという事情を簡単に説明する。といっても、そもそも簡単なことしか知らないのだが。
姉弟子たるマリッカの、姉の婿たるヒュレイの、因縁のある継母。敵と呼ぶには、遠かろう。
「気をつけろって言われてたんだけどさ。コトじゃなかったじゃんって思って。昨日のことも、ロアーデルも」
尤もロアーデルに関しては、こちらから乗り込んでいったのだから、幾らか話は違うのだけれど。
現実に自分たちを襲ったのは、マリッカが味方していたはずのケアルだった。それも、そのマリッカの墓で。墓荒らしの現場に居合わせたという理由で。万が一を警戒していたコトではなかった。
「何もコトに襲ってきてほしかったわけじゃないんだけど、何かさ」
「わかる。何かね」
「な」
互いに共感できたのが、せめてもというところだろう。




