第20章 対面 2
レイはこほんと咳払いをした。
「あー、マリッカ。チリのために、わかりやすく口に出してくれないか」
わかりにくい以前の問題だと思うんですけど。
マリッカは横目でレイを一瞥した。
「失明を嘆くようなら可愛いげがあった」
淡白に述べる。
不十分だ、という表情を千梨は浮かべたのかもしれない。マリッカは薄い溜め息らしいものを、わかりやすくするためにか吐いてみせて、続けた。
「わたしに諂うためではないだろう。恩を売るためではないだろう。わたしが生存していることで、ハルの望みは過不足なく実現する。わたしを生かせとだけ願っておきながら、わたしに構われないと不平を抱くことはないだろう」
生き返らせてやった自分に当然報いるべきである、とは考えないだろう。
「そうだね。君が生きていればハルには十分だ。それが君には不満?」
「構われたがるようなら可愛いげがあった」
姉弟子は先とほぼ同じことを繰り返した。
「──ハルは自分を蔑ろにしすぎる。そのことが不快だ」
「……それは、もっと自分を大事にしなさいよ、っていう?」
「そう言いたければ」
目をぱちぱちさせていると、レイがくつくつと笑うのが聞こえた。
「チリは真っ当な感性を持っているね」
「……あなたは読心術でも使うの?」
「顔に出てるよ」
ならば控えても仕方ない。千梨は盛大に溜め息を吐いた。
「面倒な人ねえ! そうストレートに言ってあげなさいよ」
「聞かない」
気を悪くするでもなく、マリッカは返した。
「ハルは聞かない」
「あなたが言っても?」
「その通りだ」
むう、と呻って千梨は腕を組んだ。
血水晶が束の間の垣間見せたのは、恐らくは子供時代のマリッカとハルだった。足に血をつけて泣いている、ベージュの髪をした幼い少年と、怒りながらその傷に両手をかざしている、黒い髪をした年上の少女。
今よりも表情豊かなそのときのマリッカは、案じたからこそ怒っているように、千梨には思われた。根底にあるものはきっとその頃から変わらないのだろうとも思った。以前によぎった光景が、レイを避けるな、ケアルを避けろ、という血水晶からの助言であったとすれば、今度も同種の働きかけなのであろうから。
同じ光景をレイも共有できたとしたら、その怒りが心配の裏返しである根拠など、どこにもないことを指摘したかもしれない。かといって、治療の手間を懸けさせられただの、足を止めさせただのという方向の理由で、機嫌を損ねたという根拠もなかった。ハルが怪我をし、そのことがマリッカの気に障った、見えたのはただそれだけで――見えたもの以上の意味がそこにひそんでいるとは、限らない。
「自分以上に大切な人間が一人ぐらいいたって、悪くはないと思うけども」
「そのために守れる自分を守らない」
美談とは認めない、とマリッカは冷たくレイを睨む。やれやれとレイは肩を竦めた。
「チリ。理解したか」
「え? ああ……まあ、一応?」
「なら、ゼラムだ」
マリッカはきっぱりと切り替えた。が、相方は手を挙げて遮る。
「チリに渡す物があった」
「ふあ?」
「予備」
差し出されたのは土鈴である。予備が欲しいという要請は却下されたものと思っていたので、千梨は少々驚いた。
「あ、ありがと」
「随分と話の腰を折るな」
「うん、マリッカ。俺への文句はわかりやすく言わなくていい」
「都合の悪いことを聞く気はないと?」
負けを認めるときのように、レイは天井を仰いだ。割と仲いいんじゃないの、と千梨は内心呟いた。




