第20章 対面 1
「これが昨夜話したチリ」
「これとは何よ」
レイによる紹介には、とりあえず噛みついておいて。
引き合わされた相手を、千梨は複雑な心持ちでみつめた。稀代の魔術師。盗賊を討ち果たした英雄。──数え切れないほどの人間を、今の自分とさして変わらない年齢の頃に、殺した娘。
生前を知らないから、変化があったかどうかはわからない。髪の一部が黄色く染まっていることを除いて。肌に赤みが足りない気はするが、元々そうなのかもしれない。
「血水晶の指名だ。力を貸してほしい」
「何をすればいいの?」
マリッカは淡々と告げた。千梨も静かに返した。心のうちは、穏やかではなかったが。
自分が呼び寄せられた原因。自分が帰るために満たさねばならないのだろう条件。
ゼラムを殺せと直接に願ってはいないだろう、そうであれば血水晶がゼラムの胸こそを突き破っていてもよかったはずだ。だが、最終的な未来図として、同じことを想定していたのであれば。
「昨夜も訊いたな、マリッカ。血水晶に何を願った?」
援護するようにレイが問う。眉を寄せたのは、つまり昨夜は答えを得られなかったのだと察したからである。
「チリが必要になること。君が不要なこと」
異世界の人間を連れてこなければならない一方で、それを願った当人は死なせて構わない。こうして蘇ることまで折り込み済みだったわけではあるまい。そのような願いとは、一体どういうものであったのか。
黙したマリッカは表情一つ動かさない。迷っている様子も悩んでいる様子も見えない。再び口を開くまでの間に、どういう思いと考えを巡らせたものかは、全く察しようがなかった。
「当座はイリェだ。ゼラムは──チリが来たことで変化は?」
「見えなくなった」
皮肉な口調でレイは答えた。
「とはいえ、同じ人間のことだから、同じようなことをするだろうね。チリが来る前に見えていたのと大差ないはずだ」
「なら、変わらない。あのままにしてはおけない」
放っておけば、ゼラムはイリェを荒らす。近隣にも悪い影響を及ぼす。
レイにとって、それともマリッカにとって、それは想像でも推測でもない確定事項なのだ。なるほど二人は互いを必要としたのかもしれない。ほぼ確実に起こる未来の悪事を知るレイと、その未来を潰せるマリッカ。
「ゼラムは擁護できないね。気に入らない人間を殺すことにも躊躇いがない──と言うと君と同じようだけれども、マリッカ」
「アケイルは相応しい人間だった。ゼラムに敗れたことを除いて」
よからぬ人間にみすみすその座を明け渡してしまったことは、褒められたことではないとマリッカは容赦なく断じた。
「父親としては今一つだったようだけどねえ。ケアルはアケイルに似なかった」
「そっちの話に行く前に、あたしからも言うことあるんだけど」
ケアルの名が出たので、千梨はそこで遮った。レイはともかくマリッカの視線が向いたことに、自然な反応なのに一瞬怯む。
レイが掌を上にして、促すように差し伸べた。
「……ハル君に会った。秘宝であなたを生き返らせて、多分そのせいだと思うわ、目が見えなくなってた」
一気に言って、反応を窺う。マリッカは表情一つ変えていなかった。驚くなり、痛ましそうにするなり、ハルが勝手にやったことだと不機嫌になるなり、何かしらないのかとこちらも反応に窮したときだ。
目の中に走る光景があった。久しぶりのことで当惑する。この現象は、あまり起こらないので。




