第19章 巡り会う 4
「そりゃね。置き去りになっちゃったら後味悪いし」
当たり前だと示すようにあっさりしていた。そこにわざわざ理由はいらない、ことさらな動機はいらない、とばかり。
俺は多分帰れますから、と思わせぶりに返す。案の定首を傾げる千梨に、〈門〉と〈鍵〉のことを説明した。この世界を来た直後から、主にハルがであるが、そのために動いていたことも。
「寧ろ鏑木さんが自動で帰れないみたいだったら言ってください」
「そっちか」
つっこみでも入れるような具合だった。
「どうやって連絡……レイとハル君に頼むしかないかな」
恐らくその通りだろう――それなら可能だったはずで、それなら実績もあるはずで、そしてそれしかないだろう。満足していない様子で千梨は考え込んだが、自分たちだけの力でどうにかできるとは思われない。
ハル任せでありすぎる、といういつかテミストも指摘した事実は、けれども確かにひっかかる。千梨もレイ任せにせざるをえない場面が少なからずあるのだろう。
「ま、背に腹は代えられないや」
千梨はやがて振り切るように、実際に頭を振ってみせた。
無造作に、車が着陸する。停止した。揺れなくなった。やっと、地面が近づいた。
「……人にひっついて泣くなよ! 真ん中のくせに」
「ま、真ん中だからって何にもならないわよ」
少女は声を震わせるが、何にもならないはずがあるかと右側に──端に座った少年は内心なじる。ただでさえすぐ右がぽっかりと空いているのに、左からしがみつかれて何度落ちると思ったか。
「これは、見えないと、きついね」
魔術師の少年もいささか参っている様子ではあったが、後の二人に比べればずっと余裕がある。
車が降りられるほど開けた場所はあの洞窟の近くになかったが、ハルは天馬と車を上空に待機させて、自身を含む三人を魔術で以てそこへ上げた。これと同種の魔術が車自体に備わっているのだから、落ちる心配はないのだという説明はされたけれども、それで本能の警告が軽減するわけではない。
這う這うの体で晶は馬車から降りた。ハルは上手く降りられるのかと見上げれば、アティスが抱え下ろしている。
「館まではアティスに案内してもらうとして……」
「手……じゃない、腕の方が歩きやすいのかな。貸すから」
ここ持って、と友人の手を自分の腕に導く。友人が素直につかまって反対の手に杖を握ってから、ゆっくりと踏み出し、歩き出した。アティスが前に立った。
種々雑多な動物たちが見えてくると、テミストは一度足を止めた。そうだった、と晶も一瞬怯んだが、襲ってくることはないはずだ。
静かに歩を進めていくうちに、行く手からも一つの姿が近づいてくることに気づく。日の光を受けてちらちらときらめく、紫の衣装に身を包み、遠目にもそうと察せられる厳しい顔をして。
あの人だ、と晶は囁いた。おばさまだね、とハルが応じた。恐るべき、と言いさして、テミストは口を噤んだ。
やがて師弟は対峙した。
「どういうことだい?」
「月の砂を使いました」
伯母の短い問いに、甥もまた簡潔に答えた。
「──マリッカは生きています」
伯母は目を細めた。
「わかっていようね。魔術はあれに敵わない。あれが作り替えたおまえを、魔術で元に戻してやることはできないよ」
「わかっています」
動じない甥を、しばしみつめて。
「三人ともおいで。ハルは少し話そうね」
女魔術師は踵を返した。




