第19章 巡り会う 2
口ぶりからすると、それは四、五日前といったつい最近のことであったようだ。そりゃあたしが呼ばれたのは、ボイル領主のお家騒動をどうにかするためでもあったかもしれないけどさ、とこぼした千梨にも、マリッカが血水晶に何を願ったのかはわかっていないという。イリェ領主ゼラムのことであろうとレイの推測は推測しているものの、証拠があるわけでもない。髪と目元の赤が抜けていないから、少なくとも託された使命を全て果たせてはいないのだろう。
「叶えられるのって一つだけでしょ?」
「領主絡みの問題を全部解決して、って感じだったらありうるんじゃない」
まるで頓智だ。
千梨は腕を組んだ。
「レイ的にはイリェを何とかしたいっていうか、何とかするべきだと思ってるのよね、マリッカの真意がどうあれ。余計なお世話っちゃその通りなんだけど」
ゼラムを追い払えたところで、正当な継承者がケアルじゃね。そう呟いたのは独り言だったのだろう。
「……ケアルだって?」
「そうだね」
ぽかんとする晶に、ハルが答えた。
「跡目争いがあったって話したでしょう。ケアルの父親が前の領主の嫡子で、正式な跡継ぎだったの。ゼラムは奥方の連れ子で、領主の血は引いていなかった」
「冗談じゃねえよ! あいつが」
「だから頭痛いんだ。あたしもレイも」
「チリ」
両手を握り拳にして、テミストは年上の少女を真剣に見上げた。
「ケアルはマリッカの墓を荒らそうとしたの。それをハルとアキラに見られて殺そうともしたわ。あいつのために尽力する必要なんてない」
「……え、マリッカの墓って言った?」
「そうよ。マリッカが知ってるわ」
「いや、まあ、そりゃ」
「あの、千梨さん」
晶は挙手をした。
「マリッカに血水晶で呼ばれた千梨さんなら、言ってもいいし、信じてくれるだろうと思うんだけど」
そこで一度切ったのは、ハルが止めるかどうか様子を見たかったのだ。制止が入らなかったので、続ける。
「マリッカ、生き返ったんだ。あの秘宝の力で」
千梨はぱっくりと口を開けた。
「いつ」
「昨日。ケアルが墓を荒らしたとき」
ハルが願ったのだと知らせてよいものか、迷ってまた口を噤む。ハルは望まないかもしれない。マリッカのために身を捨てたと、当のマリッカに知られることは。
……あ、マリッカは知ってるんだった。
幸いにしてというのか、そこで途切れたことに不審は持たれなかった。
「だっから急にこっち来たわけねレイのやつ! 言いなさいよ!」
そう叫んで、少女は頭を抱えたからだ。
「ああ、ごめん、あのね。あたしたち、昨日ここに来たわけ、レイが急に言い出して。来た途端にあたし置いてどっか行っちゃうし、今朝になっても帰ってないし、どういうつもりかと思ったら!」
マリッカの復活をどうしてか知って、合流すべく駆けつけたわけだ。秘密主義なんだからっ、などと幾つか文句を並べ立ててから、疲れたようにかくんと首を垂れる。
それから髪の中をがりがりと掻き回して、何事か考え込んだ。




