表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何を願って  作者: 文絵
57/101

第19章 巡り会う 1

 有能なアティスは少年少女の愁嘆場に気を取られることもなく、果物と木の実を三人分集めてきた。主人は泣いても悩んでもいなかったためかもしれない。ともあれ、ようやく空腹に意識が向いたときには、乾いた大きな葉を皿代わりに、朝食の支度はすっかり整っていた。


「──誰か、来るね」


 ほとんど無言の食事が終わる頃、注意したのはハルだった。視覚を失った分、早くも聴覚が研ぎ澄まされたのか、魔術的な感覚を働かせていたのか。聞き耳を立てれば晶にもわかった。注意深く近づいてくる、殺してまではいない気配。


 テミストが杖を引き寄せてハルに持たせた。逆光でも見えるようにしておくから、とハルが囁いて、視界が変化する。アティスが入り口の手前で身構えた。


 気配は少し遠くで一度止まった。それから思いきったように、えいやとばかり覗き込んだのは、年上と見える一人の少女だった。先端だけが赤い茶色の髪をして、目尻にも赤が差している。アティスに怯んで半歩引いた、その姿に晶は驚いた。


「血水晶に呼ばれてた……!」


「え? なん」


 少女も息を呑む。


「まさかとは思うけど。あのとき、鍵、拾ってくれた子……?」


「です」


「それにあなた、ハルじゃないの? マリッカの」


「血水晶に、っていうことは」


 幾分焦りを含んだ声で、ハルが少女を遮った。


「あなた、今、レイさんや……ケアルと、一緒にいるんですか?」


「ケアルはレイと喧嘩別れしてたわ」


 レイと二人よ、と肩を竦める。緊張を走らせた三人は、その言葉に一様に安堵の息を吐いた。


 少女はアティスをちらりと見た。


「その、青い人は。味方?」


「ですけど」


「なんだ」


 こちらも気が抜けたようだった。


「変なのがいると思って見に来たんだけど。早とちりだったか」


 鏑木千梨、と少女は名乗った。日本の名前を聞くのは酷く久しぶりで、晶はくすぐったい気分になる。海堂晶と、フルネームで名乗り返したのもそのせいだったかもしれない。


「この間まで、秘宝を探してたの。最初からそのつもりだったんじゃなくて、たまたま話を聞いたからなんだけど。太陽の花っていう、とある山の天辺にしか咲かない花がそうじゃないかって」


 橙色してそうね、と呟くのはテミストである。


「結論から言うと、その山の天辺にあったのは本当。太陽の花は違ったけど。こんな大きな蝶々の形して飛んでたわ」


「使ったんですか?」


 マリッカとハルとの間に、誰かしら二人が願いをかけているはずだ。


 忌々しげに、千梨は顔を歪めた。


「とりあえず回収して帰ってきたのよ。そしたら麓の宿に、太陽の花のこと話してた女がまだいてね。わたしたちに向かって曰く、『あるいは血水晶、あるいは夕日玉、あるいは小太陽、あるいは小満月。姿を変え色を変え、種々の異なる名で示される秘宝よ。我をボイル領主エルク=ボイレスクの最後の后にして、次代ボイル領主の生母となせ』」


「な」


「えっ」


「──荷物の中に呼びかけたんですね」


 ハルが見えない目を細める。


「派手に光ったと思ったら、蝶々もそいつも消えちゃった」


 千梨の答えはその推測が正しいことを示した。カダって名前よ、カダって女に会ったら気をつけて、と熱心に忠告されても、偶然行き合うことなどそうそうないだろうとは思ったが。


 秘宝がそこにあることを、知っていたとは限らない。太陽の花がそれであるという説は誤りだったのだから。そこにしか咲かない、貴重な花であることは本当らしく、レイの勧めで幾らか摘んできたから、無駄足にはならなかったそうだが。そういう判断ができたということは、太陽の花について、つまりはカダの仮説が誤解であることも、わかっていたのではないかと釈然としない顔をしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ