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何を願って  作者: 文絵
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第15章 秘宝の在処 3

「テミスト?」


「──ここ」


 引きつった声が返ってきた。


 最奥部は床が一段高くなっていて、壁には白い紋様を織り込んだ黒いタペストリーがかかり、その前に左右に長い櫃が据えてあった。少女はそこを凝視しているらしかった。


「お墓じゃない? 墓廟……石室」


 息を呑む。それだ、と腑に落ちた。有力者の墓。では、数多く並んだ櫃の中身は副葬品で──一番奥のものだけは、あれは──棺──!


 察していたのだろう、ハルがきまり悪げに頬を掻く。


「荒らすみたいだとも思ったし、怖がらせるかなとも思ったんだけどね。夕日玉はここの副葬品じゃあないから」


「……意外なんだけど」


 だからといって構わずに漁れる性格ではないと思っていた。いや、構わないわけではないようだが。人のこと言えないな、と自嘲気味に呟きながら、けれども撤回する様子はなかった。そこに苦言を呈するほど晶も真面目ではなかったが、……墓の中にいるのだという認識はぞっとするものがあった。


 テミストのそばまで行けば、櫃の側面には金色の文字が見て取れた。彫りつけてから金で埋めたらしい。単語が三つ、だろうか。耳で聞く言葉は理解できる晶にも、目で見る文字は読めないようだった。


「あれ、読める?」


「──マリッカ=トーラニア=コルカイア、って」


 それは確かに囁き声だったのに、静かな石室に響き渡ったように感じた。


 ハルがよろめいた。見えていなくても足音でわかった。慌てて振り向けば、薄明かりの中でもわかるほど青褪めて、死そのものを初めて知ったかのようだった。


 マリッカの墓。


 今にも倒れそうに見えて、晶は駆け戻って支えた。態度の急変を咎めているどころではなかった。


「ハル」


「……大丈夫。僕は秘宝を追って来たんだもの。マリッカに会いたくて来たんじゃない」


「大丈夫そうには見えないぞ?」


「マリッカはね、人のために行動する人が嫌いなんだ。僕は、僕のために、秘宝を」


 ぷつりと切れた。


「休んでろ、座ってろ、な? 俺らで探すから。オレンジの何かだよな?」


「……ごめん、お願い」


 聞き入れて、被葬者の弟弟子は座り込み、膝と腕に顔をうずめた。




 蓋は一人で持ち上げられる重さで、錠が下りているわけでもない。難しくないと言えばその通りだが、墓の中の副葬品を漁る、というのは気持ちのよい作業ではなかった。はっきり言って怖かった。櫃の中身は宝飾品であったり陶器であったり香木であったり、絹の表紙をつけた書物であったり、精巧なミニチュアの家具調度であったりしたが、新しい櫃に取りかかるたび、墓そのものを暴いているかのような気分になった──中から死人が、骸骨やゾンビが出てくるのではないかとも無意識に恐れたし、棺の中のマリッカが睨んでいるのではないかという気分にもなった。今にも蓋を押し上げて、不届き者を成敗しに躍り出るのではなかろうか?


 ハルは入り口付近で、恐らくは極力マリッカから離れたところで、膝を抱えていた。初めて会ったあのときも、死に顔さえとうとう見なかったのだ。──それでも、秘宝探しをやめて引き上げようとは言わなかった。


 ふと閃いたことがあったが、そんなハルに声をかける気にはなれず、晶は自分と反対の列を調べているテミストを手招きした。


「ここに秘宝が紛れ込んだタイミングっていつだと思う?」


「いつ……?」


「血水晶が使われたときには、ここはこうなってなかったわけだろ」


 マリッカは血水晶を使って死んだのだ。そのときには、仮に墓廟自体は建設済みであったとしても、副葬品までは揃っていなかっただろう。


 一、二秒置いてから、あ、とテミストは片手を口に当てた。


「誰かが使ったんだわ。血水晶が願いを叶えてから、ここに紛れ込むまでの間に」


 マリッカが死に。血水晶がいずこへか飛び去り、色を変え形を変え。マリッカの葬送が済み。何者かが秘宝を使い。秘宝はここへと飛んできて、また色を変え形を変えた。


「薄い橙よ、黄色に近い橙。もう夕日玉じゃないんだわ」


「……見えにくそうだなあ」


 ちらとハルを見やる。照明を強くしてくれと、頼むのはやはり憚られた。



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