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何を願って  作者: 文絵
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第15章 秘宝の在処 2

 屋内なのか、〈扉〉の向こうは暗かった。ハルは杖の先に灯火のような光を宿すと、そちらへ差し出して様子を窺った。危険はないと判断したのかそのまま入っていく。晶とテミストも続いた。


 部屋というより、倉庫だろうか。箱が、それとも櫃と呼んだ方が適切だろうか、整然と並んでいる。通路のように中央は空いていた。倉庫らしくないようにも感じた、その理由はすぐにはわからなかったけれども、縦に積み重なっているものが見当たらないためだったのだろう。効率的に収納するよりも、概ね左右対称になるよう、外観を重視して配置していると思しかった。


 空気はひんやりとしている。石造りらしい。天井はあまり高くはないが、大人でも特別長身でなければ頭をぶつけることはないだろう。幅はそこそこ、奥行きは大分あった。広いと言って差し支えない。理科室くらいか、教室二つ分かな、などと晶は考えた。


 背後の〈扉〉が閉まり、ハルが杖をゆるりと、水平に円を描くように回す。杖の先から光が離れ、薄まりながら広がっていって、全体的にぼんやりと明るくなった。床には黄色い、乾いた砂が敷いてある。ちらちらと光を反射しているようだから、ガラス質の何か、ひょっとしたら宝石の欠片かもしれない。


 無人のようだし、壁の向こうからも物音は聞こえないけれども、何となく足音を殺しながら進んだ。入ってはいけない場所に忍び込んだような心持ちだった。というより、事実そうなのだろう。


 ハルもこの場所を知っているわけではなかろう。いや、そうとも限らないが、〈扉〉がここへ繋がるとまではわからないだろうし、秘宝があると予想していたということもあるまい。自分のよく知る場所に、自分で案内したかのような落ち着きぶりだけれど。


「秘宝って。あれだよな」


「血水晶。今は夕日玉かな?」


「……探すの? っつうか使うの?」


「うん」


 うん、ってそんなあっさりと。


「使うっていってもすぐにじゃないよ。周りに飛び火する可能性を考えたら、自分さえ覚悟を決めればいいってわけでもないし」


「え、そんな可能性あるの?」


「どこにあるか──誰の手に落ちるかわからない、っていうのが気懸かりなんだ。現に」


 そこで切ったのは、誤魔化すためでもあったかもしれないし、純粋にそのとき気づいたためであったかもしれない。


「どうやって探そうかな」


「魔術でわかんないの?」


「……僕のものなら探せるんだけど」


 そういえば人捜しについても、知り合いでなければ難しいと言っていたのだった。


 居並ぶ櫃を見渡す。


「これのどこかに入ってるわけだよな……」


「紛れ込んでる、って言った方がいいんじゃない」


 一つ一つ開けて調べるのか、というつもりで呟けば、テミストからその意図からは外れた返事があった。訂正するほどではないが。


「これは、待たせそうだなあ」


「いや手伝う手伝う」


「わざと言ってんのハル?」


 二人は呆れて友人を睨んだ。あ、と僅かながら瞠目した少年は、本気で一人で探すつもりだったらしい。


「じゃあ、こっち側の列を頼んでもいいかな。本来ここにはない物だから、不自然なところにあると思う」


「ネックレスの中の一粒、みたいなことはないってことね」


「そう」


「手伝うのはいいんだけどさ。ここ、何」


 取りかかる前にと、晶はそこを尋ねた。多分ねえ、とハルは言い淀む。テミストの方は奥へと足を向けていた。単に奥が気になったのかもしれない。ハルが示した右側の列を、奥から順に見ていくつもりだったのかもしれない。


 そちらに気づいたハルが少々慌てて呼び止めようとしたのと、テミストが立ち竦んだのとはほぼ同時だった。



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