第15章 秘宝の在処 1
発生した〈門〉の行き先を操ることはできる。
意図的に〈門〉を発生させることはできない。
近場に〈門〉が発生しようとするとき、それをすぐそばに引き寄せることはできる。
つまりは〈鍵〉を所持していれば、それだけで〈門〉に遭遇しやすくなる。
ロアーデルによる説明、それとも自慢を、ハルはそう要約した。いかに高性能であろうと、使う機会を得られなければ宝の持ち腐れである。持ち出すことを許可したのもそうした考えによるらしい。自信作を是非とも役立ててくれ、そして感動してくれとばかりに乗り気であったという。
「自信作なの」
「あの感じだと、自分が作ったものには一つ残らず自信持ってそうだったけど」
階段の仕掛けもなかなかの出来だろうと鼻を高くしていたそうで、確かに解除しにくかったと少年魔術師は認めた。
「何か、裏側から入ってたら、本当にただ平和に貰えて終わったわけ?」
「どうだろう。そうとも言い切れない気がしてきた」
僕のミスだから言うんじゃなくてね、と挟まって、そんなのわかってる、と晶は顔をしかめた。こちらがそんな風に受け取ると思うのか。
「人を、人らしく見ないっていうか……知的好奇心って言えば聞こえはいいけど、それが先に立っちゃう感じがあったから。人である前に研究対象だと捉えるような……暗号日記をみつけたら解読したがるような、さ」
わざわざ暗号にしていた意図を顧みずに暴く、本人は悪気がないつもりであるだけ厄介な人種。そうであれば、ああしてはっきりと襲われたことは、ひょっとしたら次善ではあったのかもしれない。なまじ丁寧に節度を持って研究したいと頼み込まれたら、拒む方も気を遣っただろう。
自信作の効果のほどは、十日も経たないうちに目の当たりにすることになった。厚みのある大きな葉の繁る、色濃く太い枝を幾本も伸ばした、どっしりした木の幹に、その一部であるかのような顔をして貼りついている〈扉〉がみつかったのだ。
「テミスト」
向き直って、ハルが〈鍵〉を取り出す。ロアーデル本人に聞いたところでは、母親のいる場所へ、という風に行き先を指定することは、幸い可能であるという。母親がどこにいるのかを知らずとも。
が、テミストは手を伸ばさなかった。
「……あの。大、大丈夫かな、これ、使って。あの人が作ったんでしょ?」
震えてこそ、いなかったものの。
「本当に、ただ、行きたい場所に行けるだけで済むのかなっていうか。あの秘宝だって、願いを叶えても代償がいるし」
しどろもどろな、自分でもまとまらないらしい様子に、ハルはくすりと笑んだ。
「ロアーデルは怖かったものね。信用しきれない?」
「……うん」
「じゃあ僕が実験台になるよ」
次がいつあるかわからないけど、それでよければ。そこを注意してから、今一人に目を向ける。
「アキラもいい?」
「いいけど。行きたい場所があるなら言っとけよ」
それはもう喜んで譲るのに。
では、と勿体ぶった言い方をしてみせてから、〈鍵〉を鍵穴に挿し込んだ。大きさが合うのかという心配は無用だったようだ。〈鍵〉から手を離さずに、ハルは唱えた。
「あるいは血水晶、あるいは夕日玉、あるいは小太陽、あるいは小満月。姿を変え色を変え、種々の異なる名で示される、かの秘宝の在処へ」
え。それって。……そこに行きたい、って。
「我らを導け」
驚きと戸惑いが過ぎ去る前に、〈鍵〉は回ってかちりと音を立てた。




