第11章 三人で 3
「アキラの退屈凌ぎになって、口を挟みたくはならないぐらいの話?」
難しいわね、とテミストは腕を組んだ。俺が矢鱈口を挟みたがるやつみたいじゃないかとここで言えば、正に今挟んでいるではないかと返されるのだろうと思って、晶は渋々黙っておく。
「ねえ、ハル。魔法を使えるようになるのは、大変?」
「魔術師になるのは、じゃなくて?」
「じゃなくて。明かりを灯す魔法だけ、とか」
「一つできたら二つ目もできると思うけど。簡単じゃないだろうけど、僕は本当に小さいときから学んでるから、実感としてはよくわからないなあ」
確かにあまり参考にはならないだろう。
「使えるようになりたいの?」
「だって、何だかハルにやってもらってばっかりなんだもの。旅慣れてるし、魔術も使えるし」
たまの野宿のときも、アティスが見張りに立つ。ハルは自分の手柄ではないと言うだろうけれど、従えているのはハルだ。大体、その野宿が最小限で済んでいるのだって、ハルが細工をしているからではないか。
ハルは人さし指の先を頬に当てて、幾分頭を傾けた。
「テミストのお金で結構いいところ泊まってるけど?」
この少女は宝石をじゃらじゃら持っているのである。エルへ帰るために必死で掻き集めたのだという。
そういうこと言い出すと、俺こそ何もないんだけど。
「魔術師の知り合いは他にもいたんじゃないの?」
「どうして?」
「その髪飾り。魔法の品でしょ」
「あ、わかるものなの」
手をやったらしい。
「貰い物だけど、くれた人が作ったんじゃなかったわ。対になってて、こっちを使うともう片方のある場所に行けるんだって。一方通行で、向こうからこっちには来られない」
「片割れはどこにあるの」
「ピンクの方は持ってる。黄色の方はボイルの知り合いに預けてあるの」
「じゃあ、何かあったら帰れるんだね」
記憶に残ったのはそこまでだった。
「林檎食べる?」
「食べる」
問われてすぐにそう返したが、目を覚ましたときには既に切り始めていた気がする。考えてみれば朝食も摂っていないわけだから、まず断られないだろうと踏んだのかもしれないが。
欠伸をしながら身を起こす。何かふわふわしているのは寝過ぎたせいだろう。眠る前より楽にはなった。
こっちでも病人には林檎なんだな、などと思いながら、もう一人の連れに目を移す。
「……なんで落ち込んでんの」
「何でもない」
テミストはむっつりと答えた。ハルは何故だか苦笑しながら、宙に浮かせた台の上で林檎に刃を入れている。野宿のときによく使うそれは言うなれば魔法のまな板で、それ自体の力で浮いているであって、ハルが魔術を使っているわけではないという。
「一応ちょっと薄めに切ったけど」
「サンキュ」
皿に移して差し出されたのを、心持ち乗り出して受け取ったとき、まな板の上部が視界に入った。ナイフと剥いた皮とが載っているのは、何もおかしいことではなかったが。
「なんか皮だけ妙に粉々じゃねえ?」
くるくるときれいには剥けなかったらしい、随分と細かい切れ端ばかりなのである。
「こなご」
テミストが顔を引きつらせる。何故こちらがダメージを受けているのかと回らない頭で不思議に思いながら、晶はさくりと林檎をかじった。
……いつ以来だろう。風邪を引いたからといって、林檎を切ってもらったのなんて。
ふとそのことに思い至って、視界が少しだけ、ぼやけた。
目的地になんて着かなくていい。帰る方法なんて手に入れなくていい。この日々の終わりなんて来なくていい。
きっと無意識にそう願っていた。




