第11章 三人で 2
「アキラの字が一番わかりやすいわ」
差し出された手に石を渡せば、『晶』の横に同じ字を真似て書く。書き順違う、と訂正すればむくれたが。
「『ハル』はこれが好き」
「季節だっけ。アキラの国では『ハル』っていうんだね」
「よく見ると同じパーツが入ってるわ」
「ああ、『日』ね。太陽とか一日とかって意味な」
二人にとっては何の役にも立たないはずなのだが。自分が披露した知識で、楽しそうにしているのは見ていて気分がよい。――嬉しい。
と、テミストが何事か閃いた様子で、また別の字を地面に綴り始めた。漢字と比べてずっと画数の少ない、恐らくアルファベットのような表音文字だろう。
「ほら。これで、ア、キ、ラ」
「へえ」
「こっちがハル。それに、テ、ミス、ト、ね」
エルの文字など、二人にとっての漢字と同様、晶には無用の長物であったが。二人に劣らず興味深げに、晶はそれを眺めた。
ハルが起きたのは何となくわかっていて、朝なのだなということもわかった。自分も起きなくてはと、思ってはいたのだ。実際、一、二度、起きたつもりだった。そういう夢を見ただけだと、そのたびに後で気づいたが。
「そろそろ起きた方がいいよ?」
「んー……」
生返事をして、晶は布団を口元へ引き上げた。
宿屋に泊まるときは、ハルと晶が一室、テミストが一室を使うことになる。野宿のときは一々気にしていられないけれど、そもそも野宿をする機会が、ほとんど、再び、なくなった。あれはあれでなかなか楽しかったのにと思わないでもないが、寝具で眠った方がより休まるのは確かである。
「……アキラ?」
額に手が載る。
「熱、は、ないね」
「ん、別に……起きたくないだけ」
「だるいの?」
「……目を開けたくないっていうか」
だるいという意識はない。熱っぽいような意識はない。ただただ、瞼が上がらない。
待ってて、と言い置いてハルがいなくなる。戻ってくる前に、眠気が勝った。
ハルと、テミストと、大人が一人二人、出入りしただろうか。医者が来たようで、晶は一応目を覚ましたものの、寝惚けながら診察を受けた。何か苦い飲み物を薬だと言って渡されて、無理に身を起こしてどうにか飲んだ辺りから、意識が段々はっきりしてきた。
「追い出されなくてよかったよ」
再び横になった晶を、ハルは安堵の表情で見下ろす。
「何の病気っつったの、さっき」
診察後に告げられたのは、晶にはわからない病名だった。何だかの病気だと、誰かがそれを受けて呟いていた気がする。
テミストがくすくすと笑った。
「子供の病気」
「子供?」
「普通は子供のうちに罹るの。一回罹ると免疫ができるから、大人にはまずうつらない」
だからこのままこの宿で寝ていてよいと言われたのだ。他の客に感染する可能性が極めて低いから。
「普通は二歳から五歳ぐらいでなるものでしょ?」
「僕は遅かったよ、七歳」
「アキラ幾つ?」
「……十二」
「本当にエルの人じゃないんだなあ」
ハルがしみじみと言った。感心されても、と晶は顔をしかめる。
笑いを収めて、テミストが覗き込んだ。
「しんどい?」
「気分は元気だけど。寝れない」
「寝なさいよ」
「寝れる気しないし。暇」
「僕らが喋ってるの聞いてなよ。目をつぶって、眠る努力はすること」
当然ながら、ハルはテミスト側につく。




