第8話 二人で 4
「アキラのことは見えてなかったんだ、きっと。……マリッカを、助けられてないもの」
予見していたのであれば止めたに決まっていると、マリッカの弟弟子は断じた。知りながら見逃すはずも、止めきれないはずもないと。実現する可能性が低かったから、レイの能力をすり抜けたに違いないと。それがレイに対する信頼なのか期待なのか、マリッカが見捨てられるわけがないという方向の盲信なのかは判然としなかった。
ともあれ、マリッカの死を知らなかったとすれば、血水晶に何を願ったがためにそうなったのかも、引き換えに千梨が召喚されたことも、勿論事前にはわかっていなかったことになる。まして晶が自主的に巻き込まれてくることなど。
千梨が聞けば得心したことだろう。レイの観測した未来の中に、千梨は現れたことがなかったわけだ。いや、それよりも、マリッカがああして絶命する未来図が存在しなかったのだ。だから千梨のみならず、エルの先行きも予言できなくなった。
途中まで話を聞くために口を噤んでいた晶は、途中からは何とも言いようがなくて黙っていた。亡き姉弟子の話題が出てくること自体には慣れてきたけれども、反応には相変わらず困る。どういう顔をして聞いて、どこでどう返してやれというのだ。
といって、沈み込んで手に負えなくなるということでもないのである。寧ろ、レイがマリッカを救わなかった理由の見当がついて、心持ち晴れやかですらあった。微笑みかけてきたのにも、無理をしている様子はない。
「不思議だね。アキラがここにいるはずはほとんどなかったんだ」
「まあ、そりゃ、滅多にないことだろうけど」
ぼそぼそと応じた。予言されていた、定まっていた運命だ、と言われても複雑だ。
「いてもいなくても変わらないじゃん、世の中的には」
「世の中は、ね。マリッカやロアーデルぐらいのことをした人か、領主でもないと」
会話はそこで終わってもよかった。実際、視線も外れたし、一区切りついたと感じられるだけの沈黙はあった。その二つは同列に並べるに相応しい名前なのだろうかと、晶の思考は本題から逸れた方へ向かいかけた。一方はつい最近まで生きていた、年齢から言えば当分生きていたはずの人物で、もう一方は歴史上の人物ではないのか。
「でも、僕には全然違う」
引き戻したのは静かな呟きであった。
「世の中には影響しないし、アキラには災難だったけど。僕には」
「……災難じゃないし」
そこだけは否定しておく。去りたくて去ったのだ。望んで飛び込んだのだ。招かれてもいないのに、待たれてもいないところへ押しかけたのだ。
予言者にも恐らく捕捉されていなかった、用意されていなかった未来で、拾ってもらえたことは。災難どころか、幸運であろう。森の中で途方に暮れるしかなかったかもしれないのに。……いや、それだけではなくて。導き手に巡り会えたというだけではなくて。
やはり、口には出せなかった。
アティスが鍋を火から下ろしたので、その話は今度こそ打ち切られた。




