第8章 二人で 2
「アティスが……手に入ったから、って言うべきなのかな。だから、外に行ってもいいって許してもらえたんだ。それが二年前。僕はマリッカじゃないんだから一人旅は早いって言われてて」
「マリッカってすごいのな」
晶が何気なく呟いたのに、ハルはとても嬉しそうに笑んだ。
「一人でって、何やってたの」
「魔術を使えない普通の子供のふりをして、人さらいを炙り出したりとか」
何でもないことのようにさらりと言う。用が済めば魔術で退散すればよかったし、情報はレイに伝えれば適切に処理してくれたと。
マリッカと比較するから力不足に思えるのであって、弟弟子も実は腕のある魔術師なのではないかと、疑い始めたのはこのときからである。
話し相手がいるというのは晶にとっても楽しいことで、それ以上に一人きりでないということが心強くもあった。が、ラリサの館にいたときのように集中するべき仕事がなくなってみると、同じ人物が四六時中そばにいることをいささか気詰まりに感じ始めたのも事実だった。
それはハルも同様らしく、晶がエルでの勝手をわかってくるに従って、街に着いて宿を決めると別行動になることが多くなった。それに先立って、魔術で補助することをやめたのか、夕方なれば街に着くとは限らなくなった。そのため晶はしばしば野宿を経験するようになり、また街を歩いて見て回る時間を取れるようにもなった。夕方に着くのでは早々に日が暮れてしまって、出歩くわけにもいかなかったから。
尤も、晶としては本当に、歩き回るぐらいしかやることがない。散策自体は割と好きだから、迷わないようにだけ気をつければよい時間潰しにはなった。それも、歩き回る元気が残っていればの話であって、残っていなければ宿でぼんやりすることになる。その場合ハルは出ていくか、宿の中にいても部屋でなく食堂に居座るかした。絶対に別行動というわけでもなくて、疲れているときは二人して部屋でぐったりしていることもあるが。
ハルが何か工作めいたことをしているのは気がついていた。工作というより、魔術を込めた道具でも作っているのかもしれない。自分のいないときを選んでいるようだから、触れない方がよいだろうかと思ってそうしていた。
だから、夕食を終えて部屋に戻ったとき、あっさりそれを取り出していじり始めたときには拍子抜けした。
「うん、大丈夫そう。アキラ」
「ん?」
「あげる」
差し出されたのは青と緑の糸を編んだ飾り紐であった。足首に巻いて結ぶの、という説明を聞けば、結ぶ位置は違うがミサンガを思い出す。
「魔術を込めてあるんだ。僕が近くにいないときに何かあるといけないから」
「ああ、コト絡みの」
「コト絡みじゃなくても。マリッカがいなくなって、やっぱりちょっと治安が悪くなってるところもあるみたいだから」
念のためだよ、と付け加えたのは怖がらせまいとしてだろう。
「何にしようかと思ったけど、とりあえず速く走れるようになるもの。結界を張るものとか、捕まえるものとか、癒やすものとかも考えたんだけど」
「どうやって使うの」
「呪文教えるから。唱えた方が確実だけど、念じるだけでも上手く行けば動くよ。二回使ったら空になるから、そのときは込め直す」
最初は一つの品物に複数の効果を持たせようとしたのだが、使い分けるのが難しいかもしれないと思い直して、効果ごとに別の媒体を用意することにしたという。その代わり呪文は共通だ。荷物や装身具が増えすぎるのも考えものだけれど、いざというときに呪文を取り違えても困る。
説明を聞いて、それを足首に巻いて。しげしげと眺めて、なんかかっこいい、と晶は笑った。
その後もハルは幾つか、魔術を込めた品を作っては晶に与えた。幸か不幸か活用する機会は訪れなかったけれども、誰かに気にかけてもらえるということがまず嬉しかった。おばさまに注意されなかったら思いつかなかったから、と本人は謙遜したけれど。




