第8章 二人で 1
慣れない旅路であるが、慣れない野宿までは最初はせずに済んだ。ハルが何やら魔術を用いているようで、夕方には必ず次の街なり村なりに着く。十二、三歳の少年が二人きりで旅をしているとは珍しいことだったかもしれないが、一方が魔術師となると話は別らしい。泊まるのは宿屋だったり民宿だったり、普通の民家であったりもしたが、どこでも奇妙な顔をされることはなかった。
晶自身のことや晶の故郷のことをハルは聞きたがった、それとも晶が扱えそうな話題として振ってきたけれど、晶が言葉を濁したためか、二回は訊いてこなかった。主にハルが喋ることになるのも、晶が聞き役に回りがちなのも、そうなれば仕方のないことであったが、僕ばっかり話してるねとハルは時々詫びた。といってもハルが自分語りを始めるわけではない、エルを知らない晶にエルのことを教えたり、旅路における心得を教えたり、晶の方から訊いたから魔術のことを教えたり、といった具合である。
生い立ちを聞いたのも、家族のことを訊かれた晶が、誤魔化しついでに訊き返したときだった。母はハルを産むときに亡くなり、父の代わりに伯母が引き取って、あの島で育てられたのだという。尤も、ラリサは子供を育てるというより、弟子を教えるようにしてハルと付き合った。
「魔術師になるのは、生まれつき素質があるかどうかで大変さが全然違うんだ。魔力を持って生まれたかどうかって思ってもらえばいいよ。僕には素質はなかったけど、おばさまとしてはそういう扱い方しかわからなかったんじゃないかな」
英才教育ではあったと思うよ、と言う。魔力もないのにそんな幼時から魔術を学び始める者もそういるまい。それでも杖がなくちゃ何もできないけど、というのは自嘲だったろうか。
「おばさまはほとんど島から出ないから、――代わりにマリッカが、時々連れ出して外を教えてくれた。街の暮らしも、旅の暮らしも」
マリッカの名前が出てきて晶は幾分動揺したが、本人が出したのだから気にしすぎなくともよいのだろう。
「マリッカも一緒に暮らしてたわけ。姉弟子ってことは」
「通ってきてた。泊まることもあったけど。マリッカには素質があったから、早くに学ばなくちゃいけないっておばさまが父上にかけあったんだって」
くす、と微笑が挟まる。
「仲悪かったのかって訊きたそうな顔してる」
「いや、その」
「悪かったわけじゃないと思うよ。マリッカは誰とも仲良くしないから」
千梨がレイから聞いた程度のことは、晶もハルから聞いていた。連れがいたはずだが、その連れとの仲はどういうものだったのだろうと、千梨と同じ疑問を晶も覚えたけれども口には出しそびれた。
「外のことを教えてやれって指示したのはおばさまだけど、そしたらしっかり教えてくれたし。旅暮らしを教えろとまでは、おばさまは言わなかったと思うけど、必要になると判断して」
マリッカ自身がいつの間に旅暮らしを覚えたのかは定かではない。逆算すればかなり若い、幼いと言ってよいほどの年頃だったはずだ。それを可能にしたのは、やはり魔術師としての才能らしい。
「マリッカが、賊の討伐を始めて――役に立ちたくて、僕も島を出て。マリッカが喜ばないことはわかってたから、追いかけないで、一人で」
そこでふっと晶に顔を向ける。にこりとした。
「だからね、道連れがいて、しかも自分と年の近い男の子だなんて、楽しい」
「あ、そう?」
「一番長く一緒にいたのがおばさまで、次がマリッカで、その次は多分ルーシェ様――マリッカの姉上で、この人もたまに付き合ってくれたんだけどね。見事に女の人ばっかりだもの」
「アティスはやっぱ違う?」
「そうだね。よく働いて仕えてくれるけど、それは使い魔としての性質だし……人間と同じような心があるかどうかは、よくわからない」
ペンダントのひそむ胸元へ手をやって、ハルは考え込むようにした。




