表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何を願って  作者: 文絵
11/101

第3章 魔女の館 4

 ――わかりそうなものだったじゃないか!


 張り倒されたような気がした。一目でいい、という懇願。あの泣き方。


「……馬鹿なことを。どうすればあの娘が死ぬって言うんだい」


「血水晶を、使ったんじゃないかと」


 一瞬凍りついた後に、悪い冗談とばかり笑いかけた伯母は、続く言葉に再び表情を硬くした。マリッカが血水晶を用いた結果、あの少女と晶とが呼び寄せられ、当人は代償に命を落としたのではないか、とつっかえながらハルは話した。かの秘宝にかけた願いの、代償は何人も逃れえない。


 信ずるに足る推測なのか、強引に関連づけたにすぎぬのか。女魔術師はゆっくりと席を立ち、腕を組むようにして、窓の方へと歩いていった。外へ顔を向けたまま、甥の言葉が途切れても佇んでいる。言うべきことを言い終えたハルは、無言の背を食い入るようにみつめた後、頭を深く垂れ、膝の両拳を強く強く握った。悼むような悔やみのような気持ちを人並みに抱きながら、晶は同時にある種の疎外感を覚えざるをえなかった。


 やがて、それが本当なら、と囁くような声が聞こえた。


「それを知るのがあんたからとは、わたしも低く見られたものだね」


「そんな言い方」


「違うんだ、その通りなんだよ。僕が正式な使者になるはずはないんだから」


 思わず口を挟めばハルは慌てて取り成した。


 血水晶はトーランのところにあると聞いていたけどね、と女魔術師は呟く。所有権を争っていたという、コルカの領主かイリェの青年の名前なのだろう。それがどうしてマリッカの手に渡ったのか、心当たりがハルにはあるものか、ないものか。


 ――ふと、気づいた。では、レイとかいうあの青年は、ハルがマリッカに最後の別れを告げることを、許さなかったのか。


 正義感が格別強いわけではなくとも、それは流石に酷いのではと感じる程度には、晶は情を解した。大人しく追い払われずともよかっただろうにと、歯痒いものも覚えたが。


「それと、おばさま、違うんです。……まだ、知らないんじゃないかと。僕はたまたま近くにいて知ったから」


「そうかい」


 ハルの伯母の表情に、憐れみと呆れが混ざったように見えた。勘違いだろうかと見直すより早く、頭を振ったのでわからなくなってしまったが。


「一晩頭を冷やしておいき。わたしは構えないが」


 反応を待たずに背を向ける。行きかけてから、しかし晶を振り向いた。


「坊や」


「は、はい?」


「ハルの客人だから少し丁寧に言っておこうね。この館もこの島も勝手に歩き回らない方がいい。必ずハルと行くか、一度ハルと行ったところだけにすることだ」


「はい」


 元より、勝手に歩き回るつもりはない。探検したくなるような楽しげな空気はこの館になかった。


「それと、ハル。台所は自由に使っていいからね」


 にぃと何故か思わせぶりに笑んで、小気味よい靴音を響かせて今度こそ去っていく。後ろ姿を、晶はただ見送った。


 ふうっ、とハルは一つ息を吐いた。緊張が解けたように、と表現してしまうと大袈裟になる程度ではあったが、伯母といっても幾らか気の置ける相手ではあるのだろう。それから少々ことさらに苦笑してみせる。


「つまりね、僕は冷静じゃないだろうから、ちゃんと危険を避けて案内できないだろうって思われたの」


「……危険?」


「あ、ううん、大丈夫。おばさまがちゃんと言ってくれたから」


 それだって大して安心材料にはならないのだが。


「……あのさ。訊いていい」


「マリッカのこと?」


 先回りされてしまった。説明しないわけにもいかないと、ハルの方でも思っていたのかもしれない。ん、と口の中でもごもご応じて、晶はハルが切り出すのを待った。


「……姉弟子なんだ」


 囁き声が答えるまでに、流れた時間は十分にも達するような気が、した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ