第32章 喪失 3
「怒ってるって言うならアキラだよ。コトの前にアティスは出したくなかったのに、勝手に呼ぶんだもの」
ハルが溜め息を吐く。それがどの程度、どういう風に問題だったのか、テミストにはわからないし、晶にもわからなかったろう。そのアティスに守られたテミストとしては、怒らないであげて、と取り成さないわけにはいかない。勿論、本気で憤っている口ぶりではなかったが。
……アキラ。
どこにいるの、アキラ。
ハルに何度も謝ったことを、晶にも謝らなくてはならない。助けようとしてくれたことに、感謝も告げなくてはならない。同じことでも、違うことだ――ハルが赦せるのはハルへの負い目で、晶への負い目を赦せるのは晶だけだ。自分が悪かったと世界中に向けて喧伝して、もういいんだという甘やかしが世界中から返ってきたとしても意味がない。晶に届いて、晶から届かなければ意味がない。
……そんな理由がなくたって――会いたい。
自分の世界へ帰るよう言ったのは巻き込みたくなかったからだ。知られたくなかったからでもある。いずれにせよ、本心ではない。近くにいてほしかった。会えるところにいてほしかった。
罰だというなら、自分は受け止めなくてはなるまい。だが、罰せられるべきは自分である。晶は無事でいていいはずで、ハルには返されていいはずである。
――帰ってきて。帰ってきて、アキラ。
「マリッカだ」
ハルが空を仰いだときには、がたんと椅子を倒しそうな勢いで立ち上がって目を凝らしても、まだ何も見えていなかった。空飛ぶ馬車が現れるまで、とはいえあまり時間はかからなかった。
この島にいてはうっかり駆け出すわけにもいかなかったが、ハルが先に飛び出して、着陸するだろう場所を一散に目指してくれた。テミストはすぐさま続き、千梨も一拍遅れて追ってきた。
三人と馬車とは概ね同時にそこに着いた。第一に降りてきたマリッカは、まっすぐ千梨に歩み寄った。
「〈鍵〉を回収した。今後は〈門〉の出現に注意することだ」
「ん」
差し出されたそれを受け取って、結構ごついな、と異世界の少女は呟いた。
「ありがと」
「わたしが招いた以上は」
帰すまでが自分の責任であるということのようだった。死んでしまっては責任の取りようもなかったわけだけれど。
続いて降りたレイは扉を閉ざさなかった。だが、三人目が一向に現れないので、引き返して覗き込む。
「何をへばってるのさ」
「だって……」
よろよろと、やっと出てきた姿に。
テミストは駆け寄った。
「アキラ!」
無論、みつけたから戻ってきたのだ。晶をみつけたから〈鍵〉があるのだ。
瞳はハルと同じ黄緑に変じていた。髪に二ヶ所ほど黄緑が混ざっているのはマリッカと同様だ。やはり秘宝を使ったのだ、確信していたことだけれど。
だが。
「えっと」
抱きつかんばかりの少女を前に、少年はいささかたじろいだ。




