第11話
欲しいものが手に入らなかった時の無力感、半端ないですよね。
「そんなところで膝なんかついて、何してんだ坊主。」
「いや実は串焼きが食べたかったのですが屋台はもう終わりだそうで・・・・・ってあなたはガラガラ鳥の串焼きを売ってた人!!」
ねじり鉢巻きに首からタオル、腰には前掛けをした妙に筋骨隆々なおじさんから声をかけられた。
しかもまったく違和感がないほど似合っている。
「おう、ギリルってんだ、気楽に親父さんとでも呼んでくれ。昼間はここで屋台と、夜は宿兼酒場の『夕暮れ亭』をやってる。よろしくな坊主。」
「俺はイクス、こっちの串焼き楽しみにしてたのに店が閉まってて今までのテンション返してくれよって感じで不貞寝してるのが相棒のジークだ。よろしくギリルさん。」
「なんだ、あれ食いたかったのか。俺の店に来れば食えるが来るか?」
その言葉にジークは瞬時に反応した。
今まで不貞寝していたとは思えない動きでシュッ!と姿を消すと空中に飛び上って3回転半ひねりを加えお座りし、いい顔でギリルさんを見つめていた。
「はっはっはっはっは、お前さんそんなに食べたかったのか、まあついてきな。」
そう言うと歩き出したギリルさんに俺達はついていった。
「なるほどな~、それは大変だったな。」
俺は自分たちの事をかいつまんでギリルさんに話していた。
ギリルさんはうんうんと頷いて聞いていた。
「今日の宿がないのなら、ウチに泊まるか?部屋は空いてるぞ。」
「でもお金がないんですよ。今日銅貨15枚しか稼げてないんです。」
「気にすんな、今日くらいは只で泊めてやるよ。袖振り合うも他生の縁ってな。これも何かの縁だろう。それに子供が遠慮するな!」
「それじゃあお言葉に甘えまして、よろしくお願いします。」
雑談しながら歩いていくと中央の広場より少し離れた路地に入っていくと親父さんの店があった。
「おうただいま~。」
「お帰りなさいあんた。おや、その子達はだれだい?」
「こんにちわ・・・・・いやこんばんわかな。とにかくお世話になります。」
「ああ、お客さんかい。あたいはドーラ。ここの女将やってるよ。おかみさんって気楽に呼んでおくれ。」
なるほど夫婦でやってるんだな。仲もすごく良さそうだ。
なんとなくアダム博士とイヴ博士を思い出してしまう。
「それよりドーラ。実はだな・・・」
と、そこでギリルは申し訳なさそうにドーラに俺の事情を説明していた。
「串焼き食べたさに突っ伏してた、ねえ。あんたさ、見た目はなかなかいいと思うけど割と残念だとか言われたりしないかい?」
「いえ、姉さんたちにはものすごく甘やかされ・・・・・あれ甘やかされてたんだよな?甘やかされてました?のでそう言うのは言われたことないです。」
「なんで疑問形なのさ。周りは優しい人たちばっかりだったんだねえ・・・・・。」
「ええ、おかげさまで。」
おかみさんにものすごい温かい目で見られてしまった。
何故だ。
「まあとりあえず今日はゆっくりしてお行き。食事が出来たら呼びに行くからさ。部屋は2階の一番奥だよ。」
「分かりました。それじゃあそれまでゆっくりさせてもらいます。行くぞジーク。」
「ふう。今日は色々あったなあ。」
「そうですねえ。」
ギルドで絡まれ、孤児院に行き、屋台の前で突っ伏して。
最後だけ何かおかしい気もするが。
「明日は朝からギルドに行って依頼を受けよう。正直野宿でもいいんだけど周りの目ってのもあるしな。当面はここシルヴァーンを拠点にして行動して行こう。情報も集めたいな。」
「そうですね、お金の価値とか基本的なことから世界情勢等も。あ、創世教ってのも調べとかないとですね。その関連でご兄弟の情報が掴めるかもしれませんし。」
「そうだな。まあとりあえずそれは置いといて。やったな!肉ゲットだぜ!」
「ゲットです!」
俺達はもう肉の事しか考えられなくなっていた。
兄さん達の事、3000年後の世界の事とか正直どうでもよかった。
そう思っているとおかみさんが呼んでくれた。
「行くぞジーク!俺たちの串焼きはこれからだ!」
「行きましょうイクス!私たちの串焼きはこれからです!」
そうして俺達は食堂へ駆け出して行った。
別に最終回じゃないです。