二日目
春です!
新学期などいろいろなイベントがあるこの季節、僕はぬいぐるみのアルバイトをしています。
「クマさん!ありがと!」
「クマさん!クマさん!」
「僕のクマさんだぞ!」
コラコラそこ、喧嘩しない。
何度、やっても心が和む仕事だ。
体はしんどくなるけど、必ず笑顔を向けてくれる。クマさんに……。
これで、お金も貰えるなんて素晴らしい。
今日は春のイベント、春限定、花モリ餅をタダで配ってあげるイベントだ。
でも、春先は皆忙しいらしく客足もさほど多くはない。
それでも、仕事はこなす。何のために?子ども達の笑顔のためさ。
森の休息所
「リスさん、この花モリ餅って前からやっていた物なんですか?」
この人は謎ばかりのヤクザ系ボス、リスさんだ。
「クマ公、なんでソイツが花モリ餅ってか知ってるかい?」
「いえ、存じあげませんが。」
「ふ、それはな。この森の動物達はみな、寒い冬にも負けないで冬眠もせずに働き続けている。そんな動物達にお疲れ様とこれからも宜しくという挨拶を込めてこの餅は作られたのさ。つまり、創立1年目から作られてるわけだ。」
前置き長いんですけど。やっぱりリスさんには何も語らせない方がいいな。
「でも、本当にこの餅、美味しいです。ね、タヌキさん。」
いまだにそのマスクの下を見せようとしないタヌキさんはビクッと驚いて、キョロキョロと辺りを見ながら、意を決したようにコクっと頷いた。
仕草が可愛いからグッと!
何をさせても可愛い。無口なタヌキさんなのでした。
「ところでリスさん。この餅ってどこの業者さんで作ってるんですか?」
煙草を吹かして、一呼吸おいて、また、煙草を吸って……。
「いや、分からないなら分からないと言って下さいよ!」
「クマ公、慌てるなよ。焦れば焦るだけ、相手にその胸の内がバレちまう。漢はそんな弱いところを視られたら負け……なんだぜ。」
「ですから、返事を下さいよ。」
話を聴いていたのかタヌキさんもコクコクと頷いている。
「仕方ねーな……。ついて来い。森の小鳥さん達を紹介してやるよ。」
着いたのはモリモリランドの敷地の一角にある木の生い茂った廃虚のような場所だった。
よくその扉を見ると侵入禁止というお札が貼ってある。ホラーバリバリの臨場感を出した作りだ。こんな所、子ども達も来ないだろう。
リスさんの愛らしい手はそんなお札を無惨にも破り捨てて、扉の先にさっさと行ってしまう。
「タヌキさん僕達も行きましょうか。」
タヌキさんも首を縦に振ってくれている。
扉を開ける手が震えている。強大な存在がこの先にいるというのか!?
震える手をどうにか押し切り、扉を開いた。
その中にいた者は!?
「きゃぁぁあぁあああ!!!!」
その時僕は初めて彼女の声を聴いた。
……悲鳴だったけど